sumaho_main_hosoya.jpg

 道を歩きながらスマホを操作する、いわゆる「歩きスマホ」がいま社会問題になっています。交差点を渡りながらや電車の駅等での「歩きスマホ」はもちろん大変危険な行為ですから、これを禁止したり規制したりするのは当然の動きと言えるでしょう。

 ただし、この流れを単にやめさせてしまうことだけでは問題は解決しません。そこにある「潜在的なニーズ」を見逃してしまうことになるからです。ここには「未来を考えるヒント」が隠されているのです。

全てが「小分け」になっていく

 歩きながらの携帯電話の操作は、なぜ「ガラケー」の時代に比べてスマートフォンの時代になって圧倒的に問題になってきたのでしょうか? 原理的には可能だったガラケーの時代に比べて「歩きスマホ」として社会問題となった背景には、位置情報やニュースアプリ等の機能の進化に加えて、コミュニケーションスタイルの変化が挙げられるでしょう。

 個人間のコミュニケーションはこの数年でメールやSMS(ショートメッセージサービス)からLINEなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)系のアプリに急速にシフトしてきています。「メールからLINEへの変化」で大きく変わったことの一つは、コミュニケーションが「多頻度単サイクルの短文」に変わってきていることです。

 メールの時代であれば、一度受領したメールへの返信は「即回答」でも「数分後」で問題ありませんでした。ところがLINEのコミュニケーションでは、やり取りがテニスの「ラリー」のようになり、「すぐに打ち返す」ことが求められます。この「数分からすぐに」の変化が「歩きながらでさえスマホを離せない」という事象に関係しているのは容易に想像できます。

 20代を固定電話で過ごした40代以上の世代であれば、おそらく「1時間以上の長電話」を経験したことがあるでしょう。でも「最後に長電話をしたのはいつだっただろうか?」と改めて考えてみれば、この変化を実感できるはずです(その代わりに「ラリーの回数」も考えられないほど増えているでしょう)。

 米エバーノートの共同創業者で会長のフィル・リービン氏は、このような動きを「Snackification(スナック化)」と呼んでいます。文字通り、正式な食事を1日3回食べるというスタイルから、空き時間に「少しずつ何度も」スナックを食べるという変化です(参考記事)。

 「デスクトップPCからノートPC、そしてスマートフォンへ」という端末機器の変化は、仕事の単位、例えば「2時間から20分、そして5分へ」といった時間の短縮にも典型的に現れています。それに合わせて「多頻度化」も変化も起こっており、「1日2回」だった仕事単位が20~30回になってきています(さらに同氏はウェアラブルの時代になればこれが「200回」になるだろうと言っています)。

「小分け化」のワークスタイルへの影響を考える

 このように「歩きスマホ」に象徴される「小分け+多頻度化」の流れは仕事にどのような影響を与えていくでしょうか?

 職場における「長電話」の代表は、「2時間(以上)ぶっ通しの会議」になるでしょう。そもそもこのような会議は自分の出番は実質的には全体時間の20%以下で、ほとんどの時間は「そこにいるだけ」という点で非常に非効率なものでした。

 このような会議への臨み方も「デスクトップPCからノートPC、そしてスマートフォンへ」というプラットフォームの変遷とともに変化しています。デスクトップの時代には会議室にPCを持ち込むことができなかったので、仕方なく「頭の中とノート」でできる範囲でこっそり別のことを考えるぐらいしか時間がつぶせなかったのが、ノートPCになって「内職」がやりやすくなってきましたが、まだ基本的に「後ろめたい」ものでした。

 ところがスマホ、タブレット+クラウドの時代になってきて、だんだんとこのような「内職」が公認であまり後ろめたいものでもなくなり、むしろ自分の出番もないのに何もしていないでぼーっとしている人の方が非効率な人間だとみなされることもあるでしょう。

 仕事自体の単位が短くなってきている分、以前以上に会議の途中で別の仕事をしなければならない必要性は圧倒的に多くなっているでしょう。昔であれば文字通り部屋を「出たり入ったり」して顧客等の対応していたものが、バーチャルの世界では簡単に「出たり入ったり」が可能になりました。そうなれば必然的に長時間の会議自体も少なくなっていくことになります。

 10年後には、「最後に2時間以上会議したの、いつだったっけ?」と振り返る時代がきているかも知れません。