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 未来の働き方について考える本連載、今回はいまオフィスで「常識」とされていることがいずれ「非常識」に変わってしまうかもしれないという視点をいくつか提供します。皆さんの職場でも既に常識ではなくなりつつあるもの、あるいは近い将来、常識でなくなってもおかしくないものが身の周りでも他にもあるかも知れません。

●これらは本当に常識?

 まず以下の項目を見て下さい。ほとんどはいまオフィスで「常識」とされているものではないでしょうか?

・好き嫌いで仕事を選んではいけない

・公私のけじめは明確につけるべきである

・社内の人間はたとえ社長であってもさん付けはしない

・社員の定着率が高い会社が良い会社である

 これらの常識が、何年かしたら全く逆に変わっているかも知れないということを、以下のような社会の変化から考えてみましょう。

●オフィスの常識を変える視点

 以下の視点から、オフィスでの価値観や働き方への変化を考えてみましょう。

・効率性より創造性

 「働き方が変わる」という本連載の前提となるのは、仕事で求められる価値が大きく変わっていくことです。単に新しいICTのツールが出てきたからではなく、それらが実現する仕事の価値が変わるからそれに合わせて仕事のやり方が変わるのです。

 一言でその変化を表現すれば、「効率性から創造性へ」です。その背景にあるのは、日本という国の位置付けが変わったこと。効率性の追求については新興国にその役割が変わってきています。

 また、ICTやAI、あるいはロボットやドローン等の発展は、定型度の高い仕事から人間の仕事を置き換えていくことになるでしょう。そのような要因も人間の仕事の創造性へのシフトを加速していくことになります。

 もちろん、定型度の高い仕事は量的には大半を占めますから、数年程度でその構図が大きく変わるわけではありませんが、間違いなく創造性重視の職種の割合が増えていくでしょう。定型業務は、その定型度の高いものから機械が置き換わっていきます。本連載が対象とするのはそこでも生き残って行かれるような職種の働き方です。

・個人と企業との関係の逆転(「個企逆転」)

 このような変化により、どのような影響が出るでしょうか? 効率性と創造性の決定的な違いというのは、画一性、標準化を是とする世界と、多様性と個人の能力の発揮を是とする世界の違いです。したがって、従業員と会社の関係も「組織のための個人」から「個人のための組織」へと変わっていきます。

 そのような世界では、「名刺の持ち方」も変わっていくかも知れません。いま起こりつつある変化は、「複数の名刺を持つ」人が増えてきていることです。「会社一つに対して名刺は一つ」という現在の常識も変わるかも知れません。いずれ「個人一人に対して名刺は一枚」という、一枚の名刺に複数の「仕事」が紐づくような、そんな世界になるかも知れません(まさに個人と会社の位置付けの逆転です)。これは電子メールの会社アドレスとSNSの個人アカウントの関係にも似ています。会社のメルアドは、会社をやめればそれっきりですが、SNSのアカウントは、よくも悪くも一生その個人についていくことになります。

 「個人重視」の世界では、働くモチベーションも「お金」や「規則」や「怖い上司」のような外発的なものでなく、純粋に内発的なものになります。つまり「個人的な好み」で仕事をすることも重要な要素になります。そのためには必ずしも「好き嫌いで仕事をする」ことが悪いとは限りません。むしろ創造的な仕事というのは、「好き」なことをやるのが一番のモチベーションになります。ここが定型的かつ効率性重視の仕事と決定的に異なる部分です(そもそも「好き嫌いで仕事をするのが良くない」ような仕事こそロボットに任せれば良いのです)。

・「境界」の曖昧化

 すると「仕事を好きになる」ことや「好きなことを仕事にする」ということの重要性は以前に比べてさらに増していきます。そうなれば、良い意味での「公私混同」が起こっていっても不思議はありません。このような社員の辞書には「ワークライフバランス」という言葉はありません。もともと「ワーク」と「ライフ」が一体のものだからです(もちろん、守秘義務や備品の管理等には依然としてきっちりとした「線引き」が必要ですが)。

 こうした「公私の曖昧化」動きとともに、さまざまなものの境界が曖昧になっていくのがもう一つの変化の要因です。まさに「個人と会社」との関係も曖昧になっていくことが予想されます。例えばソーシャルメディアというのは、どんなに「組織としての発信」をしようと思っても個人が全面に出て行きますから、「これは個人としての見解です」といった言葉もあまり意味を持たなくなってくることが予想されます。

 同様に「専門家と素人」(「ブロガー」はどちらでしょうか?)、「学生と社会人」といった境界も曖昧な人が増えていくことになるでしょう。

 「社内」と「社外」の境界もだんだん曖昧になっていくことが予想できます。アウトソーシングやオープンイノベーションの進展によって「どこまでが社内か」という境界は曖昧になり、雇用の流動化によって「就社」の意識がさらに薄まっていくと、この傾向に拍車がかかります。

 この結果、「社内の人にはさん付けしない」という「常識」の運用も難しくなっていきます。「あの人って一体社内?社外?」という人の割合が増えていくからです。

 あわせて、会社の発展も必ずしも従来の「狭義の会社」の領域でなく、「(会社の)卒業生」や「外注先」も含めた大きなエコシステムとしての発展に目が向いていき、社内で人を抱え込むだけでなく、「いかに早く卒業してエコシステムの発展に尽力できるか」に価値観が移っていくことも考えられます。そうなれば、「いかに社員を辞めさせないか?」に腐心する従来のマネジメントの発想から、「いかに社員を早く卒業させるか?」に重要性がシフトしていくのかも知れません。