gigeconomy-660.png

(写真はイメージ)

新しいビジネスの象徴としてAirbnbと並んで語られることの多いのがUber社のサービスです。最近ではカラニックCEOの言動が物議を醸したり、自動運転に関してGoogleとの法廷闘争と何かと騒がしいUberの周辺ではありますが、「新しい働き方」を考える上でこれほどの材料はないと言えます。

ただし日本では幸か不幸か、従来のタクシーと配車アプリが発達していることもあって、Uberや同等の(米国のLyftや中国のDidi等)サービスの普及率が他国に比べて圧倒的に低くなっています。

これは、単なる配車サービスとして考えれば、代替サービスがあれば問題ないという考え方もできますが、実はそう考えてしまったらUber(を代表とするサービス)がもたらす社会変革のほんの氷山の一角しか見ていないことになります。

Uberを「単なる配車サービス」と考えるのは、20年前のAmazonを「単なるオンライン書店」であるとみなしているのと一緒です。Uberはこれからさらに普及してくるであろう「ギグ・エコノミー」(Gig Economy)のほんの序章でしかないからです。

「ギク・エコノミー」で多様な働き方が生まれる米国と、「新しい働き方」に触れる機会がない日本

ギグ・エコノミーというのは、Uberのように「必要な時に」スマホアプリのような簡易なツールを使って、特定のサービス向けに登録された人材をマッチングすることでビジネスが成立する様々な仕組みを総称したもので、これが「配車」に適用されればUber、Lyft、Didiといった前述のサービスになりますが、それ以外にも買い物(例:Instacart)、レストランの料理の配達(例:Deliveroo)、配送(例:Shyp)、駐車(例:Luxe)、家の掃除(例:HASSLE)、犬の散歩(例:Wag!)等、文字通り「ありとあらゆる」オンデマンドでの人材リソースのマッチングに用途が拡大しています。

日本にとって「不幸」だと先に述べたのは、Uberという特定の象徴的な先駆的サービスが、別の要因によって普及していないことが、オンデマンドマッチングを応用したギグ・エコノミーという「新しい働き方」の普及や実践の経験の機会を阻害していることです。

実際に米国のベイエリア等、海外でUberを使ってみると、実に様々な働き方のサンプルを実践している人たちがいることに気付かされます。例えばUberの働き方として、

  • 大学を卒業して就職までの間の期間だけ「バイト代わりに」やっている
  • 1日2回だけ、出勤時と退勤時に自分と同じ方角に移動する顧客を待って「通勤のついで」に顧客を乗せて「小遣い稼ぎ」をしている
  • 同業の複数社(UberとLyftとか)に同時に登録し、お互いの得意な曜日や時間帯、エリア(より多くの顧客を集客できる)を使い分ける
  • 「お金はあるが時間がない」時期と「時間はあるがお金はない」時期の調整のバッファーとして働く
  • 早朝からお昼過ぎまで働くことで午後の時間が確保できることに加えて、(比較的優良顧客が多い早朝に仕事をすることで)安全に仕事ができる(女性ドライバー)

といった働き方をしている人たちがいます(全て実際のドライバーに聞いた話です)。

さらにはUberによって(特にタクシーでの犯罪も少なくない米国では、クレジットカードと併せた個人登録が事前に必要なため)安全に仕事ができるようになったというドライバーもいます。

このように、ギグ・エコノミーの恩恵によって多様な働き方ができるようになった人々の姿を身近に見て体験することは、さらに自分にあった働き方を見いだせる機会が出て来る可能性になります。

 しかし、日本ではこのような機会にさらされることが上記の理由もあって圧倒的に少なく、「新しい働き方」を考え、実践する上である意味"不利な状況"だと言えます。

「新しい働き方」は失業の概念も変える

ギグ・エコノミー下では「失業」の概念も少し違ったものになるかも知れません。

以前米国では、「失業中」のことを婉曲的に表現するのに「I am consulting」という言葉を用いる人がいました(コンサルタントは資格もいらず、すぐに個人で始めることができるため、仕事があるかどうかは別にしてすぐにでも「名乗る」ことはできる)。しかし、いまではこの言葉の代わりに「I am working with Uber(あるいは上に挙げたようなあらゆるサービス)」と言うことができます。

この変化は「失業」という概念が実質的になくなるということにもつながるのではないでしょうか?
別の言い方をすると、このようなギグ・エコノミーが普及してくると「失業率」という指標にあまり意味がなくなってきます(「1日1時間」だけ仕事があるという人は果たして「仕事に就いている」と言えるのかということです)。

そうなると、それに代わる、あるいはセットで考える指標は働き手の「稼働率」(何%の時間働いているか)ということになるでしょう新しい働き方が普及してくれば社会指標も従来のものと変化すべきであるというのは当然の流れと言えます。

いずれにしても、Uberのドライバーのようなギグ・エコノミーの担い手達は「新しい働き方」の手本として参考になる人が多数います。
もし海外で類似サービスを利用する場合等、彼らに触れる機会があれば、是非雑談ででも「新しい働き方」について質問してみるのがオススメです。
「新しい働き方」を考える上で、それは貴重な情報源になるでしょう。

細谷 功