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 航空機での移動に付き物の荷物の紛失(ロストラゲッジ=lost luggage、ロストバゲッジ=lost baggage)ですが、最近ではGPS(全地球測位システム)などを利用した位置情報取得技術の発展によって、その解決方法も様変わりしています。紛失した荷物はほぼリアルタイムでその場所が追跡できるようになっています(だったら最初から紛失しない方法を考えた方がよさそうですが・・・)。

 例えばWheresmysuitcase.comのようなサイトでは、紛失した荷物の持ち主の苗字と荷物のIDを入力することで、いまその荷物がどこにどんな状況であるのかを知ることができます。このような仕組みは宅配便など一般的な物流の世界では既に常識になっており、ほぼリアルタイムで今荷物がどこににあって、何という名前のドライバーがそれをどこまで運んでいるかなどが分かるようになってきています。

落し物、忘れ物も必ずすぐに見つかる

 現在のGPSやRFIDタグなどを利用したロケーションビジネスではこのようなことが当たり前になりつつあります。

 「携帯を紛失した」となると、一昔前だと、免許証や身分証明書、クレジットカードの入った財布をまるごと、さらにそれらに加えてPCまで一緒になくしてしまうほどのインパクトがあり、非常にリスクの高いことでした。ところが現在、紛失した携帯が今どこにあるのかを簡単に追跡できるため(例えばiPhoneであれば「iPhoneを探す」で場所が分かる)、忘れたことに気付いた瞬間に、それが今どこにあるかを調べられて安心できるとともに、完全になくしてしまうリスクも下がっています。

 GPS関連の製品やRFIDタグなどがさらに普及し、安価なものになれば、「ありとあらゆる忘れ物」で、こうした「iPhoneを探す」のようなことができるようになるでしょう。

 例えば、「忘れ物の代名詞」である傘でも、こうしたことが可能になります。将来は傘を複数で共有する、例えば突然の雨には街中で共通に使える傘が置いてあるといった形での「シェア」が他のものと同様、主流になっていく可能性もありますが、そうなった場合でも、なおさら「各々の傘が今どこにあるか」の情報が役に立つはずです。

 いずれにしても、駅の「忘れ物コーナー」はスマホアプリがかなりの部分代用していくことになるか、あるいはさらに一歩進んで、忘れてその場を離れようとした瞬間に(例えば持ち主から5m以上離れた時に)スマートウォッチやスマートフォンが振動し始めるといった形で忘れ物を防止できるようになるかも知れません。既にベンチャー企業からこうしたコンセプトに近い製品も登場しています。

人の居場所がガラス張りになったら?

 様々なモノがネットワークに接続されるIoT(Internet of Things)の時代になれば、ありとあらゆるモノがどこにあるのか、といった状況が分かるようになるはずですから、やがては「落し物」や「忘れ物」といった概念そのものがなくなる、あるいは今とは全く違うものになっていくことが考えられます。

 さらに対象は「Things」だけではなく、個々の人間にも広がっていきます。技術的にはもうずいぶん前から可能だったことですが、全ての人間の位置情報をリアルタイムで把握可能になっていきます。そうなれば、それが悪用されるリスクも大きい代わりに、要らぬ誤解を招く(例えば覚えのない犯罪の容疑者になるなど)ことはなくなるでしょう。

 ビジネスの世界では、営業担当者などの行動分析を個人の詳細の位置情報を用いて分析できるようになります。こうして集めたビッグデータを解析すれば、"売れる営業マン"がどのような行動をしているのか、単に「訪問回数」といったマクロな行動だけでなく、訪問先にアポの何分前に着いているか、オフィス内をどのように歩き回っているのかといったミクロの行動特性まで分かるようになります。

 このような話になると必ず出てくるのが、「プライバシーや倫理などの問題が大きくなるので、技術的には可能でも簡単には普及しないだろう」という意見です(実は既に位置情報を常時利用可能にしているスマホユーザーの情報は、携帯電話事業者やOS、アプリベンダーにには完全に筒抜けのはずですが)。確かにこの議論は技術以前の話として、従来と同様の課題が残りますが、これまでとは少し変わる可能性もあります。

 一つは、IoTが進んで、「モノの場所」がガラス張りになっていけば、必然的に「人の居場所」を特定するための外堀が埋まっていく状況になります。本人のスマホの位置情報をオフにしたところで、完全に居場所を隠すことは難しくなります。例えばカバンや筆記用具の位置情報が常に分かるようになっていると、そこから持ち主の居場所が特定されるかもしれません。

 もう一つは、そもそもの人の居場所についての考え方が変わってくることです。物理的なものの存在場所がほとんどガラス張りになるころには、皮肉にも人間の活動場所の大部分はバーチャルなサイバー空間に移っている可能性が考えられます。

 「会議室にいる」というのは、物理的なオフィスの会議室なのか、あるいはバーチャルな空間の会議室なのか分からなくなります。そうなれば「プライバシー」はむしろバーチャル空間で何をしているかの方が余程大きな意味を持つことになります。「位置情報の悪用による犯罪」の意味合いも変わってくるかもしれません。