女性職員、共働き世帯、介護の担い手となる職員の増加により、政府を支える国家公務員にも働き方改革が課題となっている。国家公務員の働き方改革を取りまとめる内閣官房 内閣人事局の参事官補佐 渡部貴徳氏は、夕方の退庁時間を早める「ゆう活」などの取り組みにより、「できることから始める」ことで働き方への意識改革を実践していると語る。

 それではテレワークなどICTの活用による働き方改革の支援は、政府の各省庁でどのような状況になっているのだろうか。後編では、女性職員の活躍やワークライフバランス推進のためのさらなる施策について渡部氏に聞いていく。

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 政府の各省庁では、陽の長い夏の間は夕方の退庁時間を早め、趣味や家族との時間を楽しめるようにする「ゆう活」を2年にわたり実施してきた。働き方改革の旗を振る政府として、身内の実践の1つの歩みと言えるものだ。大きな枠組として平成26年(2014年)に策定された「国家公務員の女性活躍とワークライフバランス推進のための取組指針」があり、ゆう活もその取り組みの一環だ。渡部氏はこう語る。

 「取組指針に盛り込んでいる『働き方改革』では、大きく3つの柱があります。1つが『価値観・意識の改革』です。長時間労働を前提とする価値観から脱却することなどについて、各省庁の大臣や事務次官などが継続的に明確なメッセージを発信しています。広報誌や動画などで気づきや考えるきっかけを提供している省庁もあります。2つ目が、『職場における仕事改革』です。超過勤務の縮減やゆう活の実施がこの項目に含まれます。3つ目が『働く時間と場所の柔軟化』です。フレックスタイム制の導入やテレワークの推進もこの項目で取り上げているものです」

 各省庁のテレワークの取り組みについては、ニュースなどで目にすることも多くなってきた。実際、政府のテレワーク実践の状況はどのようなものだろうか。

テレワーク実施者は増加中、現状は全体の3%強

 各省庁のテレワークの実績は、公表されている資料から分かる。平成27年度(2015年)の国家公務員のテレワーク実績は、実施者数が1592人、延べ実施の人日数では6841人日だった。これは前年度の約3倍であり、テレワークが国家公務員の働き方に少しずつ浸透してきていることを示している。

 「前年度より増加してはいるのですが、職員全体に対する実施割合でみると、まだわずか3%強というのが実態です。各省庁でハードウエア環境の整備状況などに違いがあるといった状況はあるものの、働く場所と時間の柔軟化はさらに進めていく必要があると感じています。それぞれの省庁の置かれた環境を踏まえながらも、先進的な取り組みに近づくよう継続して進めていかなければなりません」

 実際のところ、テレワークの実践という本格的な働き方改革の取り組みになると、省庁間で温度差があるようだ。幹部職員が率先してテレワークを実践する省庁もあり、幹部だから必ずしもできないということはないとのこと。幹部職員が率先することで、多くの職員がテレワークを実践しやすいと感じるような意識改革にもつながっているようだ。ここでも、「まず隗より始めよ」の精神で、少しずつの積み重ねが大切だと見ている。

 国家公務員のテレワークは内閣官房 情報通信技術(IT)総合戦略室と内閣人事局が共同で推進している。このような中、内閣人事局、IT総合戦略室と総務省行政評価局が共同で、各省庁の実態調査を行った。

 「各省庁で意識や導入状況等は均一ではありません。2016年11月1日に公表した『国家公務員の働き方改革を推進するためのテレワーク・リモートアクセス環境整備の実態調査』では、テレワークやリモートアクセスの実態が明らかにされています。そこからも、各省庁のリモートアクセス環境の有無などによって結果としては実態に差があることが分かります。省庁によって先進的なところと、これからのところがあることを知り、それぞれの省庁が取り組み水準を認識することで、今後の対応へのきっかけになれば良いと考えています」

働き方を考える意識が少しずつ浸透

 ゆう活やテレワークなどの活動によって、働き方改革を実践し、ワークライフバランスを実現しようとする中、実際の職員に対して、こうした取り組みはどのように認識されているのだろうか。

 職員に対する調査の結果では、ゆう活を実施した夏季のワークライフバランス推進強化月間(WLB月間)の取り組みとしては、職場の意識変化を感じた職員が59%、自身の働き方を見直すきっかけになった職員が50%となり、前年度に比べていずれも増加する傾向にある。ゆう活については、「夕方の時間帯を有効に活用できた」「早く帰りやすい雰囲気が職場に醸成された」という声が多く上がっている。取り組みは着実に浸透し、一定の効果を得ていると言えるだろう。

 「政府としては、ゆう活で生まれた時間に何をしましょうといった設定はしていません。早く帰れたときにどのように時間を使っているかのアンケート調査では、『家族との団らん』『買い物』『職場関係者や友人との飲食等』『文化活動や趣味』『家事』といった多様な結果が得られました。地方支分部局と本省でも差があるようですし、必ずしも均質ではないようです」

 要するに、ゆう活で生まれた時間の使い方も多様性があるわけで、それだけ様々な思いを持った一人ひとりの人間が、国家公務員として働いているということだ。省庁の違いや本省と地方支分部局の違い、そして一人ひとりの違いを、柔軟に汲み取って働き方の多様化を推進する必要があるのだろう。国家公務員だからといって、必ずしも機械的に枠をはめれば良いというわけではない。

 「例えば、制度という意味では育児や介護に対する両立支援策が整備されています。育児では、まるまる休む育児休業や時短で働く育児短時間勤務などが選択できます。仕組みとしては、考えられるものは一通り整備されていると思います。しかし、実際に休んだりした後で円滑に復帰するところは、制度では必ずしもカバーしきれません。職場の雰囲気や本人の意向といった面が大切です。例えば、休業中の職員について、定期的に連絡をもらえた方がいいという人もありますし、逆に子育て中に仕事の話をされるとストレスに感じる人もいます。あるいは、同じ人でも状況の変化によって気持ちが変わることもあります。個々人のニーズに応えられるように、各省庁で様々な工夫をしています」

 さらに介護となると幹部職員や管理職員がまさに対象になり得る。子育ては成長の過程がある程度は予測できるが、介護は突然やってきて、いつまで続くか分からない。その上、誰が直面するかどうかも分からない。

 「育児、介護により多くの職員が直面するとなると、長時間労働に頼り切った仕事の仕方では、組織として持続できなくなります。その意味でも、長時間労働を前提にした仕事の仕方は、見直していかなければならないと考えています」

 渡部氏は1つの例として、国会が開催されているときの国会待機についてこう語る。

 「国会待機を各省庁ではどういう体制で実施しているのかを調べると、実態としては『保険をかけるように広く待機』する省庁もあれば、『必要最低限の待機にとどめ、さらに必要があれば電話対応』という省庁もありました。国会答弁資料や進捗状況にリモート・アクセスできるようにすることで、通告を待つために長時間在庁せず、帰宅後でも国会対応することを可能としている省庁もあります。国会開会中は『国会待機』は当然で長時間労働になっても仕方がないといって一足飛びに思考停止に陥るのではなく、少しでも改善できる余地を探す視点も必要でしょう。そうした部分で良い事例を横展開するのも内閣人事局の役割だと感じています」

 渡部氏は最後に、「大上段に構えすぎず、一見些細に思えることであってもまずは実践していくということが国家公務員の働き方改革の取り組みの一つです。変わっていく必要に気づき、具体的な行動につながるといいと思います」と語る。スモールスタートを促すその声は、政府機関だけでなく、民間にも向けられているようだ。

text:Naohisa Iwamoto pic:Takeshi Maehara