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人口減少による働き手の減少を踏まえ、「働き方改革」による労働生産性の改善が急務とされている昨今、資本力や高収益性、リソース確保のしやすさ、そしてCSRの観点からも、大手企業はさまざまな手法で働き方の改善を推進している。

一方で、中小企業においてはどうだろうか? 

大企業と同じ課題に直面していることは疑いようもなく、むしろ、彼らの方がよりその深刻度が高いということは言うまでもないことだろう。だが、各種要因によってその改善の進捗が阻害され、「(働き方の改善、働き方改革について)必要と認識していても、なかなか現実が伴わない」というのが実情なようだ。

そのひとつの要因として、ITツールの未活用や、活用をしていてもその分野が極めて限定的なことが挙げられるだろう。今回はこのあたりに踏み込んで見ていくこととしたい。

中小企業におけるITツール未活用による労働生産性改善の立ち遅れ

2017年3月経済産業省・中小企業庁が発表した「中小企業・小規模事業者のIT活用の状況及び課題について」と題した資料では、財務省「平成26年度法人企業統計年報」と総務省「平成26年経済センサス-基礎調査」を再編加工したグラフを示し、「中小企業の労働生産性は、全ての業種において大企業を下回る水準。また、サービス業の生産性が低い傾向」である、としている。

(Cap: 「中小企業・小規模事業者のIT活用の状況及び課題について」P2より)

この要因に関して、当該レポートでは前述したように、ITツールの未活用及び活用範囲が限定的な点を挙げている。

具体的には、中小企業の6割弱の企業において、ITを使っているが、そのうち2/3が給与や経理業務などバックオフィス業務向けとなっており、企業の収益に直接的に貢献しやすいとされる調達や販売、受発注管理といった業務でITを活用している企業は1/3に留まっているのが現状だ、と論じた上で、「①収益に直結し、導入が容易なITシステムを、②どのように導入を進められるかが課題となっている」としている。

つまり、前述に指摘されているようなIT投資の遅れが、中小企業における労働生産性の改善に「待った」をかけていると考えられる。もちろん、活用・未活用の違いにより、先々の収益性にも大きな影響が及んでくることは容易に想像できる。

参考

経済産業省・中小企業庁「中小企業・小規模事業者のIT活用の状況及び課題について

ITを活用して高収益をあげるスマートSME(中小企業)

一方で、中小企業の中にもITを大いに活用し、極めて高い労働生産性を実現し、高収益の出る体質を備えている企業も存在する。

2016年に全国中小企業取引振興協会が発表した「中小企業・小規模事業者の経営課題に関するアンケート調査」によると、中小企業・小規模事業者の中で、最も導入率が少ないITツールがスケジュールや業務情報共有など行う「グループウェア」となっており、次点が電子文書での商取引や受発注情報管理である、としている。

一方でIT投資を積極的に行っている企業は、これらのツールを活用して経営の「見える化」を推進し、コスト構造の可視化や自社のリソースの最適な分配を実行することで、高収益な体質を作り上げることに成功している、と紹介されている。

たとえば、建設の企業において、受発注管理や適切な人材配置等に係るITツールを導入し「見える化」を推進したことで、業務効率が改善し、営業利益が30%アップしたとの事例は興味深い。

こういった企業は、ITを給与計算や経理業務などの業務管理ツールとして使用するだけでなく、生産管理や原価管理、勤怠管理といった分野まで活用の範囲を広げ、会社全体で「仕事の見える化」を実現している点が特徴的と言えるだろう。

経済産業省・中小企業庁では、こういった企業をモデルとして、中小企業がITを使いこなして、経営の見える化を実現し、経営力の向上を図っていくビジョンを策定し、「スマートSME(中小企業)研究会」を2017年3月に立ち上げ、ITを活用して高い収益を上げている中小企業を「スマートSME(中小企業)」として中小企業のあるべき未来形と位置づけているようだ。

「スマートSME(中小企業)」のあるべき姿に向けた課題は?

上段で述べた通り、これら「スマートSME(中小企業)」は、収益に直結する工数管理や原価管理などについてもITツールを導入し、経営の見える化を実現することで、労働生産性の向上に積極的に取り組んでいる。

中小企業庁では、こうした取り組みは、従業員ひとりひとりの生産性が向上させ、企業が骨太体質に変えていくことで、収益を次の投資に回していく好循環を生むだけでなく、従業員の賃金アップなど待遇の改善にまでつながっていく、と見ているようだ。

では、一般的な中小企業がITツールを導入し、それを活用していくまでにはどういった課題が待ち受けているのだろうか。

いくつか、想像できる課題を挙げてみたい。

【考えられる主な課題】

・ ITを導入できる人材の不足

・ セキュリティ問題

・ コスト負担が難しい

・ 導入まで時間がかかる

・ 以前導入したシステムの減価償却が終わっていない

・ 一部のシステムを刷新することでそれ以外の社内インフラに影響が及ぶため手が出せない  ...などなど

確かに中小企業にとっては、どの課題も決して小さなハードルではなく、それを解決するなら「たとえ不便だとしても、まだ使えるシステムを使い続けていた方が良い」「導入のコストやリソースを考えると、現行のままでも問題はなく、無理にシステムを導入しなくても...」という判断をしても不思議ではない。

特に、一昔前はIT投資は初期投資額が大きく、その頃の記憶がある経営陣が二の足を踏みたくなるのも理解できるものだ。

そうした課題に対して、最適な選択肢となり得るのがクラウド型のITツールの導入だろう。

クラウド型ITツールを活用し経営の見える化を図る

クラウド型のITツールと中小企業の相性が良い点として真っ先に挙げられるのが、その導入が比較的容易な点である。サーバーなどの設備を自社で保有する必要がなく、専任のエンジニアも不要で、初期コストも安価に収まるため、導入に関してハードルが低く、しかも比較的短期間での導入が可能だ。

たとえば、勤怠管理や工数管理、経費精算などの業務を円滑に進められる「TeamSprit」は、セールスフォース・ドットコムのForce.comを採用した最高水準のセキュリティレベルを誇るクラウド型ITツールとなっており、安全性は非常に高い。さらに、サブスクリプション方式なので、運用コストも利用する分だけ済むというメリットがある。

また、リアルタイムで情報が収集され、グラフ等で分かりやすく表現されるので、経営陣にとっては「企業が行なっている活動の『今』が見える化できる」というのは最大のメリットとも言えよう。

迅速な意思決定が企業の強みとなりやすい中小企業において、この機能は、自社のリソース状況をリアルタイムに把握したり、社内のムダを省いて労働生産性を向上させることにも道筋がついていくことになる。

たとえば、ある部署でリソースに余裕ができてきたら、別の繁忙する部署の仕事の中でも切り出し可能な部分を移管させ、社内の業務量を平準化させることもできるだろうし、上がった収益から新たな投資や事業展開を行なうといった攻めの戦略を実行することにも繋げられるかもしれない、というわけだ。

もちろん、こうしたフレキシブルでスピード感のあるビジネスの仕方を実現させるには、現場の理解や周到な準備、切り替えたあとの混乱を収拾するためのバックアッププランの確保など、これまでにはなかった体制づくりも必要となるだろう。だが、こうした取り組みを始めることは中小企業が大きく羽ばたいていく契機となるのは間違いない。

ITツール活用による自社の見える化は、中小企業が「スマートSME(中小企業)」へと変貌を遂げていく第一歩になることだろう。

text:働き方改革研究所 編集部