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シリコンバレー他で話題になっている、b8taという最新テクノロジー製品の展示販売を行っている小売店舗があります。IoTやAI等のテクノロジーを活用し、まだ量産段階に至っていない文字通りの「ベータ版」の位置づけの製品を「新しもの好き」の顧客に直接見て手に取ってもらうことで販売を促すという意図を持った新しいスタイルの店舗です。ターゲット顧客は(同社ウェブページの表現を借りると)EarlyAdopterならぬ"Earliest Adopter"という「超新しもの好き」ということになります。

このように完全な完成品の前に試作品としての「ベータ版」を早期に顧客にリリースして仮説検証をしながら製品開発と市場投入を短い期間とサイクルで行っていく製品開発のスタイルはソフトウェアを中心として主流になりつつあります。

従来のハードウェアの開発では、限りなく100%に近い完成度のものを作ってから顧客にリリースするのが常識でしたが、不確実性が高い環境下では「まず作って直接顧客に見てもらって早期に修正をかける」というやり方がマッチしています。

もちろんこれはハードに比べてソフトの方が修正をかけやすいことも大きく影響していますが、ニーズへの適合性を考えても理にかなったやり方であると言えます。

このような開発のコンセプトの変化を単純化して図示すると、以下のように「白か黒か」(試作品か量産品か)ではなく「常にグレー」であり、シーケンシャル(順次的)でなくスパイラル(螺線形)の進化であるという変化です。

職種によっては、雇用関係も「お試し」から始める時代がくる?

このような「不確実性の高い環境への適応」は人材の採用においても全く同じことがあてはまるでしょう。比較的「成長の方向や路線が決まっていた」20世紀型のビジネス環境下では、新卒採用→終身雇用がうまく機能していたのに対して21世紀では人材は順次流動化が進んできました。

さらにそのような変化に加えて不確実性やスピードや変化の大きさが加速度的に大きくなってきたデジタルトランスフォーメーションの時代においては、冒頭に紹介したようなb8taのように、「ショールームに置かれた試作品をまずは手にとって試してみる」といったような採用の仕方も有効に機能する場面が増えてくるのではないかと想定されます。

「使ってみなければわからない」最新テクノロジーを使った製品にb8ta型の販売がなじむのと全く同様に(あるいはそれ以上に)「使ってみなければわからない」のが人材です。そうであるにも関わらず「短時間の試験と数回の面接」だけで「白か黒か」を決めるというのは相当大きなリスクのはずですが、実際にはそのようなリスクを冒さざるを得ない構造になっているのがいまの採用プロセスの基本的な考え方です。むしろこれまでb8ta型の「お試し」ができなかった方が不思議なぐらいだと言えます。

さらにb8taとのアナロジーで考えれば人材についてもあたかも「ショールーム」のように簡単に「手にとって機能を試してみる」ことが可能になれば、さらにそのリスクを低減し、柔軟な環境変化への対応が可能になるでしょう。

一昔前に「成田離婚」という言葉が流行りました。新婚カップルが海外旅行という非日常的な場面でパートナーの意外な不甲斐なさや自分勝手さに失望して帰国早々離婚を決めてしまうという現象でしたが、「企業版成田離婚」を防ぐためにも「婚前旅行」や「半同棲」によって相手をよりよく知るフレキシブルな仕組みはいま以上にもっともっと多様な形で用意されても良いのではないでしょうか?

例えばまずは「イベントの準備の一週間」「Webページの刷新の一ヶ月」「3ヶ月間のプロジェクト」とか(「婚前旅行」ならぬ)「長期出張へのアテンド」といった短期での「採用」や一時契約から始まり、社内イベントや旅行への一般参加の解放といった様々な形での「ベータ参画」という形で採用する側もされる側も力量や相性を確認するといったことを行い、なおかつ「出入り」のハードルを下げて「返品自由」の風土を情勢することでお互いのリスクを低減するとともに環境変化に強い雇用形態が実現されていくことになります。

現在でも雇用に際しての「試用期間」というものは存在しますが、これはむしろ「全く期待はずれ」(雇用する側にとってもされる側にとっても)の場合を排除しようという発想で、実際にはこの期間内に「やっぱりやめた」というのはほとんどないというのが実体ではないかと思います。

そうではなく、もっと能動的かつポジティブにこのような「試用期間」を活用しようというのが「人材のβテスト」的な発想といえます。

すでに実施中のものであれば、学生インターンというのがほぼこれに近い採用方法ですが、まだまだ限定的なものであり、むしろ中途採用においてこそこのようなやり方が有効になっていく場面が増えるでしょう。

もちろんこのような「採用プロセス」が馴染む職種とそうでない職種があるのは当然です。もともとこのような発想は「不確実性が高い」環境下で有効に機能するわけですから、人材でも全く同様です。

機能効用が「使ってみなければわからない」化粧品等において「サンプル」が無料で配布されるのと同様に人材においても(定型度が低く標準化されにくいような)「ある程度やってみなければわからない」職種にこそ、このようなプロセスが馴染むことになるでしょう。