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時にはアルゴリズムは高く評価される

 前回は,人はアルゴリズムを忌避する傾向があり,何かを判断するために必要なアドバイスを他の人から得るのか,あるいはアルゴリズムから得るのかという場合に,アルゴリズムの方がより正しい判断をする可能性が大きいにもかかわらず,しばしば人からアドバイスを得ようとすることを見た。今回はこれとは対照的に,人がアルゴリズムの方を高く評価するケースを取り上げよう。最近の研究によって,人からのアドバイスよりもアルゴリズムのアドバイスを尊重することがしばしばあることがわかっている。

アルゴリズム評価実験(1)

 ログらは,参加者がアルゴリズムまたは人からのアドバイスのどちらを高く評価するのかを確かめる実験を行なった。

 実験参加者はさまざまな数値に関して2回の推定を行なった。1回目はアドバイスを受けずに独力で推定し,2回目は,人が行なったあるいはアルゴリズムが行なったと言われたアドバイスの推定値を一方だけ受け取り,自分の最初の推定を修正することができた。

 実験1では,写真に写っている人物の体重を推定する課題であり,最終的にもっとも正確な推定を行なった人は10ドル得られた。実験参加者は2グループに分けられ,それぞれ推定値を受け取るが,一方のグループは「アルゴリズムが推定した」と言われ,他方は「他の人たちが推定した」と言われた。アルゴリズムによるあるいは他の人たちによる推定値とされた値は163ポンド(約74kg)であったが,この値は正解(164ポンド)にきわめて近い値である。この推定値は,すべての参加者に与えられた。

 参加者は,アルゴリズムや他者からの推定値を受け取る前に,「あなたの推定値は実際の体重のプラスマイナス10ポンド(約4.5kg)である自信はどの程度ですか?」と質問され,自信の程度を100点満点で自己採点した。

 参加者は,アルゴリズムまたは人からの情報を受け取った後で,自分の推定値を修正することができた。そして修正後の推定値の自信の程度やこの課題の難しさを自己評価し,さらに「数字に対する強さ」を測るテストを受けた。

 実験の結果,アルゴリズムからの推定値を受け取った参加者の方が,人からの推定値を受け取った参加者よりも,アドバイスをより強く参考にするがわかった。アルゴリズムを高く評価しているのである。また,アドバイスを受ける前後の自分の推定値の自信の程度を見ると,アルゴリズムからアドバイスを受けた者の方が,人からアドバイスを受けた者より自信の程度の差が大きかった。つまり,アルゴリズムからアドバイスを受けた参加者の方が,推定値の修正後の正しさにより自信を持っていたのである。これもアルゴリズムをより高く評価していることを意味する。

 また興味深いことに,「数字に強い」人ほどアルゴリズムをより信頼することもわかった。課題の主観的難しさ,ジェンダー,年齢などのアルゴリズム評価に影響を与えると予想される要因はほぼ影響を及ぼさないことがわかった。

アルゴリズム評価実験(2)

 ログらはさまざまな対象についての推定実験を行ない,同様の結果を得ている。

 実験2では,より主観的なテーマに関して推定を行ない,実験1と同じく,アルゴリズムまたは他の人からアドバイスを受けるという設定で実験がなされた。参加者は,前週の「ビルボード・ホット100」の中からランダムに選ばれた曲が今週は何位になるかの予想を行なった。たとえば,「エド・シーランの『パーフェクト』は今週は何位か?」などである。

 この実験でも,実験1と同じく,参加者は,他の人からのアドバイスよりもアルゴリズムのアドバイスを重視したのであった。

 次の実験では,参加者はマッチングアプリのマッチを行なう立場とされた。特定の女性(または男性)が,紹介された異性を気に入るかどうかの予測を,「きわめて気に入る」という予測を100点として点数化した。以前の実験と同様に,それぞれにはアルゴリズムの予測と他の人の予測が与えられた。この実験でも前のと同様に,アルゴリズムの予測を得た参加者は,自身の予測に自信を持つことがわかった。つまりこのような感情や感性がからむ主観的な領域においても,アルゴリズムの方が人よりも高く評価されたのである。

アルゴリズム評価は一般的か

 人には,アルゴリズム回避という傾向があることは以前から指摘されていたし,前回のこのブログで見たように最近の研究でも同様の主張がされている。しかし,ログらの研究や他の最新の研究では,アルゴリズム回避とは逆のアルゴリズム評価という現象も生じることが明らかになってきている。

 研究は現在進行中であるため私見に過ぎないが,人々がカーナビや「おすすめ」などのAIやアルゴリズムからのアドバイスを受け,それが自分にとって役立つという経験が増すにつれて,アルゴリズムを忌避することが少なくなり,受け入れる傾向が強くなっていくのではないだろうか。何と言っても,人の直感的判断より,アルゴリズムの判断の方がずっと正確であることは確かだ。時間がたてば,アルゴリズムのアドバイスはどんどん受け入れられるようになるに違いない。

アルゴリズムの使い方には工夫が必要

 AIの進展と共に私たちの生活はますますアルゴリズムからのアドバイスを受け取る機会が増えている。アマゾンでもNetflixでも,「おすすめ」されるものはアルゴリズムが決めたものだし,カーナビの推奨ルートも同じである。投資や保険についてもAIによるアドバイスは広く行なわれているし,健康や医療に関することでも同様である。企業はAIを人の採用や昇進・解雇にも利用するようになってきている。まさに私たちの日常生活や企業経営にアルゴリズムは深く浸透しつつあるのだ。そのために企業はビッグデータを収集し,解析し,利用しようとしている。この傾向はますます進展することは間違いない。

 前述のように,人々はまだアルゴリズムからのアドバイスに十分慣れていないのではないだろうか。言い換えれば,現在は人のアドバイスからアルゴリズムによるアドバイスへの過渡期であるから,アルゴリズムのアドバイスを直接伝えるのではなく,アルゴリズムを参考にしながら人が伝えるなどの工夫が必要ではないだろうか。

参考文献

Logg, Jennifer M., Julia A. Minsona and Don A. Moore, 2019, Algorithm Appreciation: People Prefer Algorithmic to Human Judgment, Organizational Behavior and Human Decision Processes, vol.151, pp.90-103.