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AI先進国の中国では、医師の国家試験にAIが「合格」し、また自動翻訳も英語のプレゼンテーションがほぼ「AI同時通訳」されるレベルにまで来ています。またロンドンではUberのカーナビやIT技術が、それまで世界でも「試験が難しくてステータスが高い」と言われていたタクシー業界を脅かす状況にまでなっています。

このようなニュースから考えさせられるのは、AIが普及したデジタルトランスフォーメーション後の「プロフェッショナル」のあり方です。

プロフェッショナルの定義は?

まずは現在のプロフェッショナルについて考えてみましょう。「プロフェッショナル」の定義は人や場面によって様々ですが、ほぼ共通認識としてあるのは、

・常人が持ち得ない高度な知識や技能を持ち

・「顧客」に対して高いコミットメントを示し

・高い品質を確保することに妥協せず

・それによって概ね高額な報酬を得る

といったものでしょうか。

弁護士や会計士等のいわゆる士業、伝統芸の職人、プロスポーツ選手等がその代表的ですが、近年では勤め人の中にも「プロフェッショナル的な」働き方をする人も増えてきています。

ところがこのようなプロフェッショナルに関してのこれまでの常識が昨今の環境変化によって大きく変わる可能性が出てきています。それらのいくつかを考えていきましょう。

【常識1】

「プロフェッショナル(以下プロ)とアマチュア(以下アマ)では圧倒的な差がある」

ネット時代は、アマだった人が一夜にしてプロを名乗ることができてしまいます。ブロガーはプロなのかアマなのか、人による境目も極めてファジーになってきています。このような「境界のファジー化」の流れは今後以下に述べるような要因によってもますます加速していくことになるでしょう。

このような「境界のファジー化」は上述の「プロとアマ」以外にも「学生と社会人」「社内と社外」といったことにも起こっており、近年の大きな流れと言えます。

【常識2】

「プロフェッショナルは難関試験を突破した人のみがなれる難しい職業である」

プロフェッショナルと難関試験というのは表裏一体との関係ともいえますが、冒頭の例の医師の国家試験やタクシードライバーの例に限らず、「試験が実施できる領域」というのはある意味でAIが最も得意とする領域です。それは概ね「正解があって」「知識量で勝負する」ことが試験の大きな特徴になるからです(「芸術家検定試験」や「起業家検定試験」を作るのは非常に難易度が高いことでしょう)。

おまけにこのような競争率が高い(高かった)職業は、概ね給料が高い事もあり(機械化した時のコストダウンの幅が大きいので)、最もAI化が進みやすい領域とも言えます。

【常識3】

「『有料』のプロの方が、『無料』のアマよりも高い品質を提供できて当然である」

ネットのコンテンツを見ていればわかりますが、この常識はもはや一般論としては当てはまりません。プロも大量の無料コンテンツを提供することもあれば、アマもアフィリエイトプログラムの様な形で有料化できるという値付けの問題があるのも確かですが、そもそもいま私たちは「品質と価格が相関しない世界」に突入しているとも言えます。

プロとアマの品質での決定的な差と呼べるのはその「ばらつき度合い」でしょう。お金をもらって仕事をしている人たちの特徴は「顧客が望む最低レベルの品質は保証する」ことです。逆にいえばアマの作った作品に関しては品質の低下に対する歯止めがきかないためにとことん底なしに陥って「とんでもないレベルのもの」が提供されてしまうリスクがあります。

ところがリスクは必ず両方向に働くので、アマチュア(例えば「時間を持て余した熱狂的な愛好家」)は良い意味でも「とんでもないもの」を生み出す可能性を秘めています。特に高い創造性を必要とする作業においてこれが顕著に現れるはずです。

逆にプロは(顧客からお金をもらっている分)最低限の品質を保障する代わりにとんでもない時間をかけて(合理性に反して)突き抜けたものを生みだすインセンティブが働きにくいという側面も併せ持っています。

【常識4】

「プロは決してミスをしない」

「ミスをしない」「時間に正確で絶対に遅刻しない」「疲れていようが体調が悪かろうが品質がバラつかない」......このようなことも「プロ意識が高い」人に共通することではないでしょうか?

ところが考えてみれば、このようなことこそ、まさに人間より機械の方が優れていることの最たるものなのです。自動運転が始まってしまえば、「危なっかしくて人間にはとても運転は任せられない」が常識になっていくはずです。

また往往にして「プロ意識が高い」というのは「プロとはこうあるべき」とその人なりに決めた基準や指標を徹底的に遵守することを意味することが多いのですが、そのように「決められた指標を最適化すること」もこれまたAIが最も得意とすることです。

デジタルトランスフォーメーション後のプロフェッショナル像とは?

むしろこれからの「人間しかできないこと」は、新しい指標そのものを発見し、定義していくことです。したがって「プロ意識が高い人」は果してAI時代に相応しい仕事が将来的にもできるのか、要注意です。

「私失敗しないので」という有名な決めゼリフ、近い将来はAIの十八番となることでしょう。

この様にデジタルトランスフォーメーションは、「プロフェッショナル」の定義やその常識を根本からひっくり返す様な可能性を秘めています。10年後には「あの人はプロだから......」というフレーズがむしろネガティブに使われる場面が増えてくるのではないでしょうか。