1999年の創業以来、携帯ゲーム、オークション、SNSなどの分野でモバイル業界の先頭を走ってきたDeNA(ディー・エヌ・エー)。近年はプロ野球チームの運営、メディア事業の強化、遺伝子検査サービスの提供、自動運転技術を活用した交通サービスの開発など、これまでの枠にとどまらない事業を展開している。そんなDeNAの“働き方”を掘り下げるインタビューを、2回にわたって紹介していく。

 創業当時の社員数はわずか3人。それが今や単体で1005人(連結ベースでは2363人:2016年3月末時点)にまで増えた。それゆえ、急激な成長に社員制度が追いつかず、状況に応じて整えてきたケースもある。今回紹介する「DeNA Women's Council」もその1つで、育児休暇から復職する社員の支援をきっかけとして2012年に誕生したものだ。ユニークな社内委員会が「働きやすさ」にもたらした効果を、当事者である人事担当者に聞く。

dena_zenpen_main.jpg

インタビューに答えてくれた渡辺さん

育休からの復帰を全力で後押し

 そもそもDeNA Women's Council(以下DWC)とは何なのか。まずは成り立ちから説明していこう。同社では事業が広がるにつれて社員が急増し、気がつけば平均年齢は結婚や妊娠・出産のボリュームゾーンとも言える約32歳となっていた。それとともに産前・産後休暇(産休)から育児休暇(育休)に入る人、育休から職場に復帰する人の割合が高まり、それまでの個別対応では限界が見えてきた。

 こうした背景もあり、2012年の春頃に"育休からの復職にどのように向き合うか"との課題が浮上。社員の平均年齢に鑑みるとこの傾向は今後も増えていくことから、継続的に課題を検討する社内委員会の形でDWCが置かれた。設立に携わり、現在も中心で活動するヒューマンリソース本部 人材企画部 ビジネスパートナー第二グループの渡辺真理さんは、DWCが生まれた経緯を次のように振り返る。

 「活躍している社員が妊娠・出産するとなると、その部署にとっては戦力ダウンになってしまいます。一緒に働いたメンバーは、純粋に戻ってきてほしいと考えますよね。そこで戻ってきやすくするために、スキームとして復職する形を整えるべきだと考えたのです」

 2012年10月のDWC設立とともに、ある2つの象徴的な制度を導入した。1つは全正社員を対象とした「育休復職サポート手当」。これは子どもが満1歳6カ月になるまでの間に復職した社員に対して保育料として毎月2万円を支給する制度だ。導入にあたり、どのような制度にすればよいか、社内で調査を重ねたと渡辺さんは言う。

 「耳を傾ける中で出てきたのは、休暇を増やしてほしいという声ではなく、復帰したいのに保育園に入れないからツラいといった経験談です。そこで、保育料が高くなるものの、認可外保育園に子どもを預けてでも復帰したい人にとって、少しでも支えになればとの思いから育休復職サポート手当を設けました。そこには"会社としても早く戻ってきてほしい"とのメッセージを込めています」

 もう1つが「ベビーケア休暇」。これは全男性正社員が対象であり、男性社員の妻の出産日近辺で、通常の有給休暇(有休)に加えて全5日間の有休が与えられる。女性だけを意識した一般的な産休・育休の周辺制度とは180度異なるその狙いを、渡辺さんはこう話す。

 「こうした制度はどうしても女性社員に対する福利厚生になりがちなのですが、弊社の正社員は8割ほどが男性。ですから女性が働きやすくなるためには周囲の男性の理解が必須になります。それに年齢層から考えても男性社員も女性社員同様、結婚したり、奥さんが出産したりといったライフイベントが多い。そのときに、ぜひ奥さんのサポートをしてほしいという意味を込めて、有休とは別に設けたのです」

 この制度のメリットは、実際に男性社員が"イクメン"となることで子育ての大変さを体感できる点にある。男性の育児経験者が増えれば増えるほど育児に関する理解も深まり、その後に妊娠・出産・育児を控える女性社員についても協力体制が築きやすくなるわけだ。

 ベビーケア休暇はかなりの勢いで浸透しており、今では出産の1カ月前後ぐらいにほとんどの男性社員が取得する。さらに男性で育休を取得する社員も増えており、長い人では半年取得した人もいるという。

復職後のキャリア像までサポートしたい

 DWCのメンバーは人事の渡辺さんと、複数の部署のママさん社員で構成。基本的に2週間に1度の割合で定例ミーティングを行い、今後の方向性や取り組むべき課題について話し合う。並行して、ママさん社員のアドバイスを交えた産休前の面談や、復職後のヒアリングなどにも柔軟に対応。女性社員の頼れる相談窓口として機能する。

 復職した社員は時短勤務を取得するケースが多いが、それによって引け目を感じてほしくないとの理由から、異動調整には細心の注意を払う。前提は元の部署への復帰とはいえ、IT業界の荒波にさらされている同社では、わずか半年のブランクでも元の部署が組織再編で吸収されてしまったり、上司が変わってしまったりといった急激な変化がたびたび起こり得る。しかしそうした場合でも、復職予定社員の持つ経験やスキルを受け入れ先の部署に丁寧に説明し、双方気持ちの良い状況で働けるように心がけている。

 設立から4年を迎え、DWCの当初の目的だった「働きたいと思っている人がライフイベントによって働けなくなる、働きづらくなるといった問題」(渡辺さん)はほぼ解消された。一方、今は次の段階へと進むステージに来ている。それは復職後のキャリア像を明確にすることだ。

 「働ける場所があればいいと考える人と、出産する前と同程度もしくはそれ以上に活躍したいと考える人では、明らかにモチベーションが異なります。ですから、復職"だけ"が目的ではなくて、復職後に成長していける道筋をどうやったら描けるのだろうかと話し合いを続けています。

 本来は20代の頃からライフステージを見据えた将来の話をしていく必要があるのでしょう。または先輩社員が身をもって成長できる前例を増やすだけでも刺激になります。そうすれば、自然と同じような成長曲線を描く人が増えるのかもしれません」(渡辺さん)

そもそも「女性活用」の意識すらない

 一般的にDWCのような活動は「女性活用」といった視点で括られがちだが、渡辺さんはその見方には否定的だ。

 「DeNAは女性だから、男性だからと区別する風土ではありません。実際に企業の経営スタンスも男女を分けて考えることはありませんので、政府が言っているような『女性活用』というものとは少し異なってくると思っています。DWCに関しても、女性を活躍させたいとの思いから始まったのではなく、性別に関係なく、女性特有の課題があるならばそれを解決したい、という思いで取り組んだまでですから。

 当社には、女性社員を何%にしたい、女性管理職を何人にしたいといった観点は全くありません。男女かかわらず何かしらのライフイベントを迎えた社員が、それでもキャリアを追求できる土壌にすることが本来の目的です」

 実際、妊娠・出産に限らず、現在は介護や自身の病気などの相談も舞い込んでいる。こうした相談にも個別対応しているそうだが、いずれはきちんと制度化し、会社として受け皿を作る日が来るのだろう。政府による「女性活用」「働き方改革」が声高に叫ばれる昨今、性差を超えてナチュラルに社員に対応するDeNAの事例は、1つのしなやかなヒントになる。

text:Masaki Koguchi pic:Takeshi Maehara