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《Dreamforce 2016 観戦記もいよいよ最終回。》
今回はCloud Expoの出展企業の中から、私の独断と偏見で面白い!と思った企業をご紹介したいと思います。

Salesforce.comのアプリケーションパートナーというと、CRMやSFA関連のサービスというイメージが強いかもしれません。しかしSalesforce.comのプラットフォームでは、それ以外にもさまざまな分野のアプリケーションが開発され、多くの企業に導入されています。ということで今回は、CRM・SFA以外の分野でのソリューションをピックアップしてみました。

つたない英語で突撃インタビューをしたわけですが(笑)、中には日本でサービスを展開している企業や日本進出を視野に入れて動き出している企業もありました。話を聞いていると、クラウドやIoTがビジネスに与える影響の大きさを改めて実感し、そのさざ波が既に日本にも訪れつつあることを感じました。今回のコラムがちょっと先の未来予想図として、少しでも皆様のビジネスのヒントになれば幸いです。

●Rootstock Software(http://www.rootstock.com

Rootstock Softwareは製造・物流業者向けのクラウドERPです。
組立系製造業に特化したソリューションで、 Salesforce.comのセールスクラウドはもちろん他のERPと連携することなども可能です。
製造・物流業界向けクラウドERPサービスでは最大手で、導入企業の売上規模は数十億円から一千億円程度が中心とのことでした。現在はアメリカ・カナダ・オーストラリア・ヨーロッパで事業を展開しており、カナダとアメリカ以外は代理店経由で販売しているそうです。
今回は、運良くその場にいらしたCEOのPat Garrehy氏にインタビューさせていただきました。

-製造業向けのクラウドERPということですが、なぜセールスフォースのプラットフォームでサービスを展開しようと思われたのでしょうか。

Garrehy氏:ここに至るまでには、長い歴史があります。私はもう35年ほどこの業界にいますが、仕事を始めた1980年代はメインフレームからクライアント/サーバー型へと切り替わろうとしていた時期でした。そして2000年頃からのWebテクノロジーの進化とともにASPサービスが生まれ、市場も大きく拡大していきました。当社は2008年創業ですが、当時クラウドERPで有名なNetSuite社が非常に成長していたので、NetSuiteのプラットフォームを使ってサービスを提供していました。
2011年あたりに次の展開について考え始めました。その頃、クラウドプラットフォームビジネスが急成長しており、自分たちも独自のクラウドプラットフォームを構築するのか、NetSuiteのプラットフォームで続けるのか、いろいろと悩みました。その中で、Salesforce.comのプラットフォームが素晴らしいエコシステムを築いていること、そして既にたくさんのアメリカ企業がSalesforce.comを導入していることを考え、Salesforce.comのプラットフォームでサービスを展開することを決めました。

-クラウド市場の成長とともに、御社も成長しているわけですね。

Garrehy氏:そうです。セールスフォースのプラットフォームで展開しようと思ったのも、急に決めたわけではなく、長期的な視野を持って次にどのようなテクノロジーの流れが来るかを常に予測しながらビジネスの方向性を探ってきました。競合企業よりもずっと前からクラウドに対する準備はできていたと思います。当社の製品は必ずしもCRMと連携していなければならないというものではないですが、Salesforce.comの強力なエコシステムには大きな魅力を感じています。こんなにすごい勢いで拡大することは想像していませんでしたが(笑)
2016年はWindowsが登場した1992年とか93年のようなインパクトがあったと感じています。これからはクラウドERPがそれに匹敵するほどの大きなトピックになると思っています。大きな注目を集めるまでに8年かかりましたが、大企業が「これからはクラウドERPだ!」と声を上げるのを当社は待っていたんですよ(笑)。

-日本への進出は考えていますか?

Garrehy氏:日本への進出は、現在検討中です。海外で事業を展開するのであれば適切なパートナーを選ばなくてはいけません。複雑なマーケットなので、マーケットを熟知している人や企業と組むことが重要です。これからさらにビジネスを拡大するにあたっては、若いメンバーを育てていくことも大切だと思っています。

長年、ERP業界に携わってきたというGarrehy氏。テクノロジーの進化とビジネストレンドを常に予測しながら事業を進めてきたそうですが、そんなGarrehy氏でも「Salesforceのプラットフォームがここまで影響力のあるものになるとは思わなかった」そうです。その言葉にSalesforceの成長の勢いを強く感じました。今後の同社の動きにも注目したいと思います。


●Servicemax(http://www.servicemax.com/jp

Servicemaxはクラウド型のフィールドサービス業務支援システムです。コールセンターでの修理・点検の受付から作業員への指示、現場での作業確認に至るまでの一連のプロセスをクラウド上で一元管理できます。導入先は石油・ガス業界・医療業界・航空機業界などさまざま。GE、フィリップス、ソニーなど、何千人もの保守サービス要員を抱えている企業に多く導入されているとのことです。全世界で600社に導入されており、日本でもすでに事業を展開しています。 
ブース担当の方のお話によると、修理サービスは初回解決率(技術者が1回目の訪問で、どれくらい問題を解決できたかという割合)が、顧客満足度に大きく影響するとのこと。Servicemaxには、さまざまなKPIも用意されており、高い顧客満足度を実現できるサービスだということでした。

さてServicemaxの急成長の背景にはIoTの進化があるようです。
例えば今のMRIの機械は、ほとんどがインターネットに接続されているそうで、機械に異常があったらServicemaxがアラートをキャッチし、故障する前に技術者が修理に行くことができるということでした。 また、もうひとつ面白い事例として紹介してくれたのが航空機エンジンの修理です。航空機のエンジンは非常に繊細で、温度が1度上がってもだめというくらい厳重に整備されているそうです。Servicemaxでは飛行中の航空機エンジンの情報を取得し、異常があった場合には着陸する滑走路に事前に整備士をスタンバイさせておくということも可能だのこと。これにより、機器のメンテナンス時間が圧倒的に短縮され、故障による欠航なども避けることができるということでした。
これらはいわゆる予防検知と言われるものです。今後エレベーターから工場の機械まで、ありとあらゆるものがIoT化することで、壊れたり事故を起こしたりする前に整備・修理することが可能になります。そうなると機器からの情報の受け皿となり、カスタマーサポートやフィールドエンジニアの配置や修理指示を最適化できるServicemaxの需要は益々高まるのではないかと感じました。

ちなみについ先日(2016年11月)、同社はGE Digital社に買収されました。GE社は新たな収益の柱とするためにIoTにかなりの投資をしているようです。医療機器をはじめとするさまざまな機械をIoT化し、メンテナンスも含めてサービスを提供するという流れを考えると、Servicemaxの買収も納得できます。メーカーももはやサービス業。今後、IoTが社会にどのような影響を与えていくのか、とても楽しみです。


●Zuora(https://jp.zuora.com

Zuora社はサブスクリプション型ビジネス向けのソリューションサービス"Relation Business Management(RBM)"を提供する企業です。世界で約800社が同社のソリューションを導入しており、日本でも事業を展開しています。

「サプスクリプションモデル」という言葉は、定額制サービスのことです。HuluやNetflixなどの動画サービスやSpotifyなどの音楽サービスなどが代表的なサービスですが、最近ではMicrosoftのOffice365など、ソフトウェアも月額制を採用するようになりました。日本でもサプスクリプションモデルはだいぶ認知が高まってきましたが、アメリカに比べるとまだまだ数は少ない印象です。ちなみにアメリカでは化粧品、レゴのレンタル、洋服のレンタル、高級ワインの試飲まであらゆる商品・サービスがサブスクリプション型で提供されています。 
RBMは従来のシステムでは対応できないサブスクリプション型ビジネスのプライシングから契約管理、請求管理、会計管理そして分析まで一連の業務をサポートしています。RBMを使えば、これまでの売り切り型のビジネスからサブスクリプション型ビジネスにスムーズに移行できるということでした。

さて、先ほどIoTが普及することによってメンテナンスサービスのあり方が変わるという話をしましたが、機械のIoT化によってサブスクリプション型ビジネス市場も急激に拡大すると言われています。
なぜでしょうか。
機械がIoT化すれば、その機械がどれくらい稼働し、どのような状態にあるかがリアルタイムで正確に把握できるようになります。そうするとメーカーは顧客に機械をレンタルし、使用状況に合わせて定額制で使用料を請求することが可能になります。顧客にとっては、高価な機械を資産として購入することなく、低コストで必要な分だけ使用することができるようになります。機械の導入が「購入型」から「利用型」へと変化し、「月額(年額)いくら」という定額制で決済されるようになるのです。
日本のメーカーではコマツがRBMを採用しているとのことでした。建設現場のさまざまな情報をIoTでつなぎ、建設業者などに対してサブスクリプション型でサービスを提供していこうとしているそうです。

Relation Business Management(RBM)という名前が示す通り、サブスクリプション型ビジネスは顧客とのリレーションをいかに長期的に構築し続けられるかが肝になります。これまでは営業担当者が頑張って、機械を導入してもらうことがゴールでしたが、サプスクリプション型ビジネスではいかに契約を解除されないか、満足してサービスを使い続けてもらえるかが重要になります。そうなると、職種のあり方や仕事の進め方、キャリアの構築の仕方にも大きな変化をもたらすことになりそうです。将来のキャリアを考えるうえでも、こういった流れは頭に入れておいた方がいいかもしれませんね。


●Gameffective(http://www.gameffective.com

Gameffective社は、従業員の営業活動やカスタマーサービス、研修プログラムにゲーミフィケーションの要素を取り入れ、生産性の高い仕事を実現するソリューションを提供しています。イスラエル発の企業です。

ソーシャルゲームが大流行した2011年頃、「ゲーミフィケーション」という言葉が大きな注目を集めました。

ゲーミフィケーションとは、

マーケティングの手法の一種で、ゲームが本来の目的ではないサービスにゲーム的要素を組み込むことで、ユーザーのモチベーションやロイヤリティを高めることである。
ゲーミフィケーションの主な手法としては、例えばWebサイトなどでレベルアップやアイテムの獲得、ユーザー同士でスコアを競う、といった要素を挙げることができる。ゲームが持つ「面白い」「楽しい」といった要素を追加することで、ユーザーを楽しませ、積極的にサービスを利用したくなるようにかきたてる効果が期待できるとされる。
ゲーミフィケーションは、概念それ自体はポイントプログラムなどの形で従来からもあったが、近年のソーシャルアプリ(ソーシャルゲーム)の発展などを経てから改めて注目を集めている。
出典:IT用語辞典バイナリ(http://www.sophia-it.com

ということで、このゲーミフィケーションを従業員のモチベーションやロイヤリティ向上に有効活用しよう!というのがGameffectiveです。

Gameffectiveでは、野球・サッカー・カーレースなどのゲームをしているようなUI/UXで、細かい目標管理や進捗管理をすることができ、達成するとバッジがもらえたりもします。e-learningの機能も非常にビジュアル性が高く、ゲーム感覚で楽しく学んだり成果を記録できたりする仕組みとなっているようです。もちろん他のクラウドサービスやオンプレミスのシステムともコーディングなしで連携することができ、企業のニーズによって管理する数値やグラッフィックを簡単にカスタマイズすることができます。

日本の企業では、目標管理や研修というと真面目にやらなくてはいけないイメージがありますが、どうせやるなら楽しくやった方が成果にもつながりますよね。Gameffectiveのブースは常に人だかりができていて、アメリカでの注目度の高さを感じました。日本への進出はまだのようですが、HRテックは日本でも注目の分野なので、今後同様のサービスが日本でも生まれるかもしれません。
ゲーミフィケーションという言葉自体は新しいものではないですが、企業への導入という面では注目のキーワードになりそうです。


●Global Reward Solutions(http://www.globalrewardsolutions.com

Global Reward SolutionsはGCodesというギフトサービスを提供している企業です。
社内でのギフトサービスというとあまりピンとこない気もするのですが、日本に比べて離職率の高いアメリカでは就職先を選択する際に福利厚生が重要なポイントになるようで、ボーナスや社内表彰の副賞として欲しいものを自分で選べるというのは、とても素晴らしいサービスだそうです。導入企業は「多すぎてわからないよ!!」ということでした...。

GCodesは、現在85か国のサプライヤーと提携しており、商品・商品券・旅行・体験サービスからプリペイド携帯の通話料追加まで(笑)、約1,000万アイテムが用意されているとのことです。例えば、Gameffectiveのようなゲーミフィケーションを活用した社内研修や目標管理の中で、目標を達成するともらえるバッジがGcodesのポイントと交換できるようになっていて、該当ポイントの対象商品の中から好きなものを選べる、というようにも使えるそうです。確かにモチベーションは上がりそうです(笑)

一昔前までは多くの人にとって、ひとつの会社で昇進していくことが働くうえでの大きな目標になっていたかもしれません。しかしビジネス環境がめまぐるしく変化する今、人によって働くモチベーションやゴールはさまざまです。そんな中で企業が良い人材を集め、良いプロダクトやサービスを生み出し続けるためには、一人ひとりに適した働き方、目標設定と評価、そしてそれに見合った適切な報酬を提供できるような環境作りが必要不可欠です。
HR分野でのAI活用も大きな注目を集めていますが、「人」の判断だけで「人」を評価することが徐々に難しくなりつつあるのかもしれません。 GameffectiveやGCodesのブースの盛り上がりを見ると、人事の分野にも積極的にテクノロジーを活用し、人材育成も評価も報酬制度もシステマチックにやっていこうという雰囲気を感じました。


まとめ

日本のスタートアップ業界も、だんだんとBtoCやBtoBtoCからBtoB向けのサービスへと広がりつつあるな、と感じていましたが、世界に目を向けるとBtoBのSaaSだけでこれだけいろいろなものがあるのか!と本当に圧倒されてしまいます。しかし間違いなくこの流れは日本にもやってくると思うので、数年後、日本でどのようなクラウドサービスがメジャーになっていて、企業がどんな風にクラウドを活用しているのか、今から楽しみです。

シュナイダーエレクトリック社のデモ。ヘルメットの演出で臨場感たっぷり。

キャンプファイヤー風のデモスペース。おしゃれです。

実際に買い物ができます!

たくさんの刺激をもらったDreamforce 2016。日本にいては知りえなかったこと、感じられなかったことばかりで、やはり外に出ることは大事だなと痛感しました。Salesforceの今後の動きはもちろん、いろいろなBtoB SaaS企業についてもウォッチしていきたいと思います!
みなさん、ここまで読んでいただいてありがとうございました。


「SaaSビジネスの今と未来」Dreamforce 2016 観戦記