
インターネットの普及によって様々なものが評価されるようになり、私たちの購買行動は大きく変わりました。買い物をしたり飲食店を選んだりする時にユーザーによるレビューやレーティングを参考にするのは最早必須といってもよくなってきています。このようなレビュー&コメントによる評価のシステムは、さらに加速されその範囲が広がりつつあります。
「見知らぬ人」に評価される時代の到来!?
まずは評価の対象が「一部の有名人」から多くの職業人に広がりつつあります。わかりやすいのは弁護士や税理士といった「士業」の人たちで、これらの人たちは様々なウェブサイトであたかも飲食店のようにレビューやコメントが付けられる仕組みが出来上がっています。当然それは医師、コンサルタント、様々な教員といった個人が前面に出るプロフェッショナルな職業にも広がっていきます。
今後はさらにその対象が「一部の人」ではなく、一般の人全員に及んでくることが容易に予想できます。「見知らぬ人」(実際には何らかの接点はあって相手は自分のことを「知っている」わけですが)から評価され、それが公開されるという、これまでは完全に「他人事」だったことが自らの身の上にも日常的に起こりつつあり、既に一部では実現しつつあります。
つまり、これまで主流だった「利用する側から利用される側へのレビュー」が反対に「利用される側からする側へのレビュー」に広がっているということです。
レーティングされる日常が人の振る舞いを変える
例えばUberは利用ごとに乗客がドライバーをレーティングするとともに、ドライバーも乗客をレーティングし、その点数は乗客側からも(一般公開まではされていませんが)見られるようになっています。そうなると必然的に乗客側の振る舞いも変わってきます。
この現象は会社の世界で従来からあった「上司から部下への評価」だけでなく、上司が部下や周囲の人から評価されるという「360度評価」が社会全体に広がっている、ということだと言えるでしょう。
また、中国では個人の金融取引における信用度を示す指標として、アリババグループの決済システム「アリペイ」とともに運用されている信用情報システムである「胡麻信用」が急速に浸透しつつあり、人々の行動パターンを大きく変えつつあります。
胡麻信用では、個人の支払い履歴や資産の保有状況のみならず、学歴や交友関係までが350-950の間で「得点化」され、その得点によって様々な取引の優先度合いが変わるばかりでなく、就職や結婚といった際にも個人の評価指標として用いられるために、人々はこのスコアを意識しながら行動するようになるといった形で行動にも影響を与えるようになっています。
さらにこのような評価は、個人の知らないところで公開情報を使って行われていくことも考えられます。アメリカでオンラインの不動産データベースを運営するZillow社のZestimateというシステムでは、アメリカ全土、1億以上の個人の不動産が非公式に値付けされ、その評価価格が万人に見られるようにウェブ上で公開されています。
この動きを個人に広げれば、公開情報から個人が「勝手に値付け」される世界が来てもおかしくはありません。
評価され合う社会がもたらす可能性
もちろんこのような動きには弊害もあります。ビッグデータの時代、個人の行動に関しては膨大な「個人情報」がネット上に行き交うことになりますから、技術的には相当なことが可能になりますが、そこではプライバシーの問題が常につきまといます。
またあまりにレーティングの影響が大きくなると、それを買収等の不正な手段を使って良くしようという動きが出て来るであろうこともこれまでの様々な評価システムを見ていれば予想ができます。
ただしこのような弊害にも関わらず、大きなメリットがあり、私達の日常を抜本的に改善していく大きな可能性も秘めています。
先述の胡麻信用のように、うまく使えば人々が他人からの信用を得る方向に行動するようになると言う形で社会が人間の住みやすい方向に流れていく可能性があることがその代表例です。
また、様々な場面で様々な「評価指標」ができていけば、これまでであれば定量的に一律で用いることができる指標が「年収」とか「偏差値」といったごく限られたものだったために偏っていた価値観を、SNSでの影響度とか顧客としての振る舞いといった様々な指標が増えていくことでさらに多様なものに変えていくことができるようになるかも知れません。
「多様性の重要性」がさけばれていますが、結局行き着くところが限られた評価指標になってしまえば、その実践は難しくなります。私達の生活に必要なものを指標化して(しかも多数)、それをITを活用しながら捕捉し、可視化することも私達の暮らしや働き方を変えていくためのきっかけになるでしょう。