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政府が推進する働き方改革のこれまで

政府は、2017年3月28日、働き方改革実現会議において「同一労働同一賃金など非正規の処遇改善」「長時間労働の是正」「柔軟な働き方がしやすい環境整備」など9つの分野について議論をし、ロードマップを示しました。このうち「同一労働同一賃金など非正規の処遇改善」「長時間労働の是正」「柔軟な働き方がしやすい環境整備」の3つの分野の関連法案を国会に提出し、2018年7月6日に「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」を公布しました。これにより、雇用対策法、労働基準法、労働安全衛生法、労働時間等設定改善法、パートタイム労働法、労働契約法、労働派遣法など多岐に渡って法律が改正されました。

法改正の施行まで残り2か月を切りました

2018年7月6日に公布された「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」により、2019年4月1日から順次施行されます。ここでは、法施行まで残り2か月を切った今、各企業が何を準備すればいいのか、法律がどのように変わるのかを踏まえ説明します。

法改正内容一覧

(2018年7月6日交付「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」)

2019年4月1日施行 (中小企業は③について2020年4月1日施行)

対象企業

法改正内容

全ての企業

年次有給休暇の年5日の時季指定義務

全ての企業

労働時間の適正把握義務

全ての企業※

時間外労働の上限規制

全ての企業

勤務間インターバル制度の普及促進

全ての企業

産業医・産業保健機能の強化

全ての企業

フレックスタイム制の清算期間延長

全ての企業

高度プロフェッショナル制度の創設

※建設業、自動車運転の業務、医師は上限規制の適用外で、5年猶予

今回は、①と②について説明します。

 

① 2019年4月1日  年次有給休暇の年5日の時季指定義務がスタート

法改正の内容

使用者は、従業員に年次有給休暇の時季を指定して、5日以上取得させなければなりません。対象は、年次有給休暇を年10日以上付与される従業員です。年10日以上年次有給休暇を付与される従業員であれば、パート、アルバイト、有期契約労働者なども義務の対象です。

取得させる方法は、使用者による時季指定、従業員自らの取得、計画年休いずれか3つの方法で、取得した日数の合計が、付与日から1年以内に5日以上必要です。年5日以上取得させなかった場合、罰則(30万円以下の罰金)があります。

法改正に伴う効果

年次有給休暇の取得率が増加することにより、1カ月や1年単位で労働時間数が削減され、休まない事に起因する過労死の予防になります。また、年次有給休暇は、従業員の心身のリフレッシュが目的です。リフレッシュした状態で働くことにより、生産性向上が考えられます。一方で、従業員1人1人の有給取得日数を適正に把握するため、管理簿のメンテナンスなどの手間がふえます。

 

準備する5つのポイント

1.自社の付与ルールを確認しましょう

年次有給休暇を付与した日を基準日といいます。この基準日から1年以内の5日について取得する必要がありますが、会社や従業員によって基準日は異なります。自社のルールを再度確認して対応しましょう。

2.付与方法を考えましょう

年次有給休暇を付与する方法は、以下の4つがあります。

  • 付与日から一定期間(半年など)は従業員の取得タイミングに任せ、一定期間後5日以上とっていない従業員に対して時季を指定
  • 事業場全体の従業員へ一斉付与
  • いくつかのグループに分けて班別に付与
  • 従業員個々に付与する個別付与

3.管理簿を作成しましょう

年次有給休暇の取得管理簿の作成と保存が義務化されました。

管理簿には、以下の項目が必要です。

  • 年次有給休暇の基準日
  • 与えた日数
  • 取得・指定した時季

新たに作成せず、既存の労働者名簿などに追記することも可能です。

4.就業規則に定めましょう

会社による年次有給休暇の時季指定について、規則に盛り込みましょう。

5.年次有給休暇を取りやすい会社を目指しましょう

年次有給休暇を取りにくい職場環境では、従業員はなかなか取得することができません。休暇をとりやすいようにチームで仕事をして仕事を割り振る、業務内容を見直す、管理職が積極的に年次有給休暇を取得するなど、年次有給休暇を取りやすい職場環境を目指すことが大切です。

 

② 2019年4月1日 労働時間の適正把握義務

法改正の内容

全ての従業員の労働時間状況を、タイムカードやICカード、パソコンのログなど、客観的な方法で把握することが義務付けられました。これにより、一般の従業員はもとより、管理監督者(労務管理について経営者と一体的な立場にある管理職、店長、工場長など)にも過重な長時間労働を行なわせないようにするなど、適正な労働時間管理が求められます。

また、過去の裁判例を踏まえるなどして、労働時間の考え方が厚生労働省のガイドラインで明確にされました。事業場内での、使用者の指示による準備・着替えや後片付けの時間、待機時間、参加が業務上義務付けられている研修・教育訓練の受講に要する時間なども、労働時間として扱わなければなりません。

法改正に伴う効果

労働時間を把握することで、長時間労働になっている従業員を早期に発見し対応することができ、長時間労働に起因する過労死などを防げます。

始業・終業時刻の確認・記録は、タイムカードやICカード、パソコンのログなどで客観的に把握する必要があります。そうではなく労働者の自己申告制とする場合、ガイドラインで規定している通り、労働者と管理者双方に対する十分な説明と、自己申告の労働時間と実際のそれとの実態調査が必要になるなど、労働時間管理があいまいにならないような措置をおこなうことが求められます。

 

準備する2つのポイント

1.自社の勤怠管理方法の確認をしましょう

客観的な方法で労働時間を把握できない場合は、タイムカードやICカード、パソコンのログなど勤怠管理方法を見直しましょう

(社会保険労務士 栗城 恵)


参考サイト


プロフィール 栗城 恵

社会保険労務士

1988年生まれ。東京都出身。出産を機に社会保険労務士事務所を開設、仕事と育児の両立を通して現在進行形で働き方改革中。

企業の社外人事部として、人事制度の整備や付随する助成金の申請、労務相談等を行う。

留学経験を活かし、外資系企業や外国人労働者を雇う企業への対応にも積極的に取り組んでいる。
http://kurikisr.com