太陽光発電など自然エネルギー発電製品を提供するベンチャー企業のLooop。東日本大震災の被災地に太陽光発電所を設置するボランティア活動から誕生した若い企業だ。太陽光発電所を顧客自身で設置できる「MY発電所キット」を提供するなど、新しいアイデアでエネルギー業界に新風を吹き込む。

 急成長するLooopをけん引する代表取締役社長の中村創一郎氏は、自らのポリシーを「テンションが上がる仕事をしよう」だと語る。この考え方は同社の社員にも向けられる。それでは社員がテンションを上げられる仕事環境とはどのようなものなのか。中村氏が実践する従業員のモチベーション向上策を聞いた。

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よくしゃべり、よく笑う。社長の中村氏は非常に快活な人物だ

 太陽光発電や風力発電の設備をオーナーが自前で設置できる「発電所キット」を提供する――。こんな新しい発想でビジネスを展開するLooopが発足したのは2011年。東日本大震災をきっかけに、代表取締役社長を務める中村創一郎氏が転身して起業したベンチャー企業だ。中村氏は当時を次のように振り返る。

 「東日本大震災まで、中国でレアメタルのトレーディング事業をしていました。事業は成功しており、いわゆるいい暮らしもできていました。一匹狼のような形でビジネスをしていたのですが、ある日そんな暮らしをふと虚しく感じるようになったのです」

 そんなときに東日本大震災が日本を襲った。中国の知り合いが、日本で大変なことになっているならと140ワットの太陽光パネルを50枚、譲ってくれたという。「パネルだけあっても仕方がないので、独立型の太陽光発電所を作って、被災地にボランティアとして持っていったのがLooopの始まりです」。中村氏はこのようにLooop設立のきっかけを語る。

 実際に赴いた東北の被災地で見聞きしたことに、当時の中村氏はある意味で驚きを覚えたという。それは、あるものを取りに家に戻ったきり消息を絶ったおじいさんの話だった。一体何を取りに帰ったのか。中村氏は金品などだろうと内心思ったという。

 だが違った。それは位牌だった。命と引き換えに位牌を守る気持ちに対して、中村氏は先祖代々受け継がれてきたものを命すら顧みずに守ろうとする気持ちに感動を覚えた。同時に金品であろうと考えてしまった自分を恥ずかしく思い、知らないうちに中国の拝金主義におかされていたことに気が付いた。

 「会社を作ろうということよりも、一匹狼ではなく、たくさんの人と一緒にチームでビジネスをしよう、人の役に立てる仕事をしようと思いました」

 ボランティアで設置した太陽光発電所は、まさにその時、日本で求められている「商品」だった。再生可能エネルギーを核に、人の役に立つ事業を日本で興そうと中村氏は中国から日本へ舞い戻った。

若い頃から中国でシビアなビジネスを経験してきた

 中村氏はLooopの社名の由来を次のように語る。「社名には、"o"(オー)が3つ含まれています。公式には太陽光、風力、水力の3種類の自然エネルギーを使って、エネルギー循環型社会を作るという意味を込めていると説明しています。でも、Looopは仲間3人で始めた会社だったので "o"が3つあるのが本音です。今は社員も増えて、145人分の"o"がある会社なんですよ」と豪快に笑う。人と人がつながることに目覚めた中村氏が、その思いをLooopの社名に込めたのだ。

テンションが上がる仕事をしよう

 レアメタルのトレーディングという成功しているビジネスをあえて辞め、再生可能エネルギーをビジネスにしようと考えたのはなぜなのか。中村氏はこのように述べる。

 「僕は"テンションが上がる仕事をしよう"と心がけています。再生可能エネルギーのビジネスは、テンションが上がる仕事だったんです。仕事としては、土地を買ったり、地元の方と交渉したり、太陽光パネルなどの商材を中国から輸入したりといった様々な作業があります。その結果、お客さまは売電収入を20年間にわたって得ることができ、喜んでくれるわけです。こんな楽しい仕事はありません。たくさんの種類の仕事に関わって人の役に立てると思うと、テンションが上がるんです」

 でも、社長1人がテンションを上げていたら、従業員は付いていくことすら大変なことになりそうだ。

 「従業員にとって一番大事なことはなんだろうと考えるわけです。会社に何を求めているか。もちろん賃金は大切な要素ですが、それ以上に自分を成長させてくれる場であるか、自分が楽しい場であるか、究極にはそこに行き着くと思います。だから僕は、従業員にもテンションが上がる仕事をしようと言い続けているんですよ」

 Looopは創業から4年で、145人の世帯になった。ベンチャー企業としては珍しく、従業員の年齢構成は22歳から70歳以上までと幅広い。「年齢層も含めて、あえて多種多様な人材を採用するようにしています。いろいろなジャンルの仕事があるので、それぞれが好きな仕事を見つけることができると考えています」と中村氏。確かに、好きな仕事ができれば、テンションを上げやすい。

 中村氏は、「西堀榮三郎先生の考え方の一つに『異質の協力というものがありますが、多種多様のいろんな個性の方がひとつの目標に向かってまとまり、相乗効果を生むことを重要視しています」と言う。

 「人材の多様性があると、コミュニティーができるんですね。フットサル部なんかもありますし、今年はフリークライミングをするボルダリング部ができました。60歳以上の社員でシニア会なんてコミュニティーも出来上がっています。シニア会では、どうやったら女性が活動に参加してくれるかなんてことも考えるわけです。従業員の横のつながりが強くなり、モチベーションが高くなる好循環が生まれます」。仕事の内容だけでなく、従業員のつながりを強めることで、テンションの高い仕事ができるようになるわけだ。

 そんなLooopだが、社員数が60人から80人へと増えたころに少しテンションが下がる事態が発生した。中村氏は振り返る。「面白愉快な社長が何か提案している――。そんな少し白けた感じが出てきてしまったんです。部署間でもギスギスした雰囲気が生まれていました」。

 組織が大きくなる過程で、一体感が得られなくなる人数の壁を超えたのだ。そこで中村氏は、従業員主導で様々な活動をできるようにするため、提案活動の分散化を図った。その成果が前出の部活であり、そしてランチミーティングの開催である。ボトムアップの要素を加えて、従業員のモチベーションを引き出そうとする狙いは当たり、「僕は裸の王様にならずに済んでいます」。

21世紀の企業の家族主義とは

 Looopが求めるつながりは、従業員同士の関係にとどまらない。中村氏は、社員の家族も含めて大きなつながりを作る「家族主義」を掲げている。社員旅行も家族同伴だし、1月に行われた新年会も家族に出席してもらい、会社の目標を家族の前で発表したという。社員だけだと行きたがらない社員旅行も、家族同伴なら楽しめる。全員でパーティーをして、その後は家族だったり、仲の良いグループだったり、思い思いに遊べる時間を提供する。

 なぜ家族主義なのか。中村氏は幼少期の思い出を語る。「父が経営していた会社が家族主義だったからかもしれません。社員の子ども同士が友だちになって、出会うと"1年ぶりだね、何やっていた?"なんて話をしたりしていました。奥さん同士もお友だちで情報交換していました」。

 それが、なぜ21世紀のベンチャー企業でも有効なのだろうか。「家族ぐるみでつながりがある家族主義は、会社にとってメリットが大きい」。中村氏はこのように語る。家族が会社の仕事を理解して、他の従業員の家族とも交流があれば、会社を辞めにくくなるというのだ。優秀な人材を会社にとどめておくためにも、Looopでは家族主義が有効に機能しているという。

 家族主義を推進する中村氏だが、ちょっと申し訳なさそうに「実は去年までの社員旅行は海外だったのですが、今年は国内にしないといけないかと思っています。従業員数が増えて、その家族も含めるとかなりの金額になるんです。でも、社員と家族で行く海外旅行ぐらい大したことないといえるようにしないといけませんね」と言う。家族主義がもたらす従業員全体のモチベーションの向上が会社の業績を押し上げれば、海外への社員旅行の復活も遠い夢ではなさそうだ。


Looop 中村創一郎氏インタビュー

text:Naohisa Iwamoto pic:Takeshi Maehara