太陽光発電など自然エネルギー発電製品を開発・提供するLooop代表取締役社長の中村創一郎氏は、壮大な目標を持っている。太陽光発電所を砂漠に設置してエネルギーを供給できるようにし、そのエネルギーで砂漠を緑化する事業だ。

 「テンションが上がる仕事をしよう」というポリシーの下で壮大な目標を語る中村氏を支えるのは、多様性を意識して採用している社員の力だ。多様性の中から一人ひとりの会社に対するロイヤリティーを引き出し、知見を会社全体に広げることで、Looopは壮大な目標へと歩みを進めている。

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父から教わった“ウミヘビ”理論。その内容とは?

 太陽光発電の「発電所キット」など自然エネルギー関連事業を推進するLooopは「家族主義」を掲げ、新年会や社員旅行に社員の家族を招待するアットホームな一面も見せる。こうした家族主義が、先進的なビジネスを支える社員のモチベーションをうまく高めている。

 「従業員の多様性は、とても意識していました。年齢層も下は22歳から上は70歳以上までいますし、フットサルのサークルなどは70代の社員から女性社員の8歳の子どもまで混じって、皆が一緒に楽しんでいます。今年は、広告代理店が主催する会社対抗運動会にも申し込んで出場したいと思っています。日本を代表する大企業と、家族総出で戦ったら面白いじゃないですか」

 多様な人材がさまざまな形で家族も含めて交流を持つことで、そこに楽しい時が見つかり、仕事に対する一層のモチベーション向上につながる。プラスの発想の人心掌握術の根底には、中村氏の社員に対する高い信頼感があるようだ。

 「僕は海外でビジネスをしていましたから、その視点で見ると日本の人は超優秀だと思います。ずるいことをする人や、怠ける人は少ないですし、皆が会社に対して一定のロイヤリティーを持っています。特に、50代、60代にはとても優秀な人が多いと思います。新しいビジネスを作るのはものすごく難しいことですが、年齢に関係なくできる人にはできるんですね。そうした人の知見が皆に広がることで、会社にとって有益な、パフォーマンスの非常に高い社員になっていくのだと思います」

"ウミヘビ"理論で社内をまとめる

 こうした家族主義でモチベーションを高める一方、いざ仕事をするとなると、多様であるがゆえに組織としてのまとまりを欠いてしまう懸念もある。中村氏は、そんな組織をうまくまとめ、運営するための人材登用のコツを披露する。それが"ウミヘビ"理論である。一体どんな理論なのか。

 「さまざまな魚がいる水槽の中にウミヘビを1匹入れると、それまでばらばらだった魚がまとまるというのがウミヘビ理論です。会社などの組織にも、ウミヘビのように他とは違った存在を入れることで、会社の中がまとまるというわけです。そこで、あえて"えげつない"人を採用したりしているんですよ。この理論は元々、父が言っていたものですが、当たっているなと思うようになってきました」

 中村氏は続ける。「"ウミヘビ"は、会ったらすぐに分かります。本人も"ウミヘビ"だと分かっているのかもしれません。営業の数字も上げるし優秀だし、人として確固たるものを持っています。"ウミヘビ"は気力があり、そして強くなければなりません。でも、えげつなくて、イヤなことを言うんですよ。もちろん、良い意見ならば取り入れますが、そうでない場合も結構ある。これが周りの人をまとめることにつながっています。今のLooopには、"ウミヘビ"が何人かいますよ」

社内には何人かの"ウミヘビ"がいるという

 何人かいるというLooopの"ウミヘビ"の中に、はたして社長の中村氏自身が含まれるのかどうかはインタビューでは明らかにされなかったが、少なくとも中村氏だけでなく、その他にも優秀で鋭い視点を併せ持つ"ウミヘビ"たちがいて、そして多様性を持った社員がまとまって事に挑む――。人々の多様性を認めながら、一定の方向性を見失わないように会社を運営するノウハウが、"ウミヘビ理論"から透けて見えてくる。

 同社が導入したシステムも、こうした多様性を持った社員の"目利き力"によりもたらされたものだ。営業支援システムとしてセールスフォース・ドットコムの「Sales Cloud」を導入。そしてSales Cloudと連携する勤怠管理システムとして「TeamSpirit」を採用している。ただ、"目利き力"だけで導入を決めたわけではない。中村氏は最終的に導入した理由を「経済合理性の高さ」にあると説く。

 実は家族主義も、"ウミヘビ"理論も、その根底にあるのは経済合理性だ。どちらも、それらがさらなる会社の成長を促すものだからだ。そして中村氏が描くLooopの事業の壮大な未来図も、単なる絵空事ではなく、経済合理性の追求に他ならない。

砂漠を緑化、太陽光発電で豊かに

 Looopは国内だけでなく、世界展開を図っている。既に展開している中国、韓国、台湾をはじめ、現在は東南アジアに注力してベトナムやフィリピン、インドネシア、タイなどに足がかりを作っているところだ。そうした中、中村氏が次に注目しているのがアラブ首長国連邦(UAE)のアブダビだという。

 「アブダビでは再生可能エネルギーの展示会が開催されています。中東は産油国ですが、太陽光発電の需要もあります。東南アジアの次は、アブダビに拠点を作ることを考えています。中東などの砂漠であっても、電力があれば掘削して地下水を汲み上げたり、近くの海の海水を淡水化して持ってきたりすることで、緑化は可能です。

 しかし、今は送電網を張り巡らせることが容易ではありません。そこで、太陽光発電所をその場に設置して、エネルギーを供給するシステムを作れば砂漠の緑化が可能になります。太陽光発電所で砂漠を緑化して、そこに街ができたらうれしくないですか? そういうことを考えるととてもテンションが上がりますよね」

 砂漠だけでなくシベリアなども、太陽光発電所の設置によって人が住みやすい場所になる。地球上にそうした場所を増やせるのではないか――。「太陽光発電は、地球の人口問題の1つの解になる」というのが中村氏の考えだ。「ニーズやメリットといった経済合理性があれば、ほぼすべてのことは叶うと感じています」。

太陽光発電による砂漠の緑化。中村氏のビジョンは壮大だ

 そして中村氏のこうした壮大な将来像は、現状の課題解決の一つでもある。

 「太陽光パネルを作って、太陽光発電所を設置していると、今は自然を壊している部分もあります。日本の里山やきれいな景観は、日本にとっての財産です。現在はそうした場所にもメガソーラーが作られていますが、未来には取り払って海上などに移す必要があるのかもしれません」

 太陽光発電所を提供し、太陽光パネルで砂漠の緑化を語る中村氏だが、「歴史的・文化的な環境は大切にしたいですね。それこそが日本の価値になるのではないでしょうか」。身近な日本の環境を守ることも数十年スケールの壮大な目標の1つとして見据えているのだ。


Looop 中村創一郎氏インタビュー

text:Naohisa Iwamoto pic:Takeshi Maehara