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前回までは、ずるや不正に関する、行動経済学者ダン・アリエリーらの研究を見てきたが、今回は、アリエリーらの研究にはない視点で、不正について見ていこう。その視点とは、競争が不正やずるに対してどんな影響を及ぼすかである。

競争が及ぼす影響

 競争が経済社会に及ぼすプラスの影響については、わざわざ言うこともないだろう。経済発展、研究開発、イノベーション、学問的発見などに対する競争の意義や役割は大きい。

 消費者にとっても、同じ製品がより安く手に入ったり、新しく高性能の商品が以前と同じ値段で買えるのも、しばしば企業同士の競争が原因である。教育やスポーツにおいて「頑張ろう」と考えて、実際に成果が上がるのも、ライバルとの競争が一因であろう。

現代社会は、競争原理の上に成り立っていると言うことさえできよう。

 一方、競争は不正を招く恐れがあることもしばしば指摘されている。

 最近相次いで発覚した有名・老舗企業による製品の安全に関するデータ改竄や、顧客との契約に違反するような低品質の製品の納入など、企業による不祥事は後を絶たない。産地を偽装した材料を使って、あたかも高級食材を安く提供しているように見せかけた事件が、有名レストランや一流と言われるホテルのレストラン、高級料亭などで頻発したことは記憶に新しい。

 また、スポーツの世界では、国家ぐるみと言われる違法なドーピング行為があったし、日本では、ライバルを陥れるために、その人の飲物に禁止物質を混入するという衝撃的な事件もあった。

 企業やスポーツ界ばかりでなく、研究者による不正も後を絶たない。STAP細胞事件はまだ数年前のできごとだし、東大教授による実験データの捏造・改竄事件もあった。

 このように、さまざまな世界で不正、不適切、いんちきな行為が引きおこされている。その原因はさまざまに考えられる(たとえば、倫理的価値観の欠如や低下、集団内の同調圧力、将来の保証されない短期雇用など)が、原因の一端として、当事者同士の過剰とも言える「競争」があることは間違いない。

 研究者の世界では、一応定年までの雇用が保障される教授や准教授になるまでには、助手や助教など短期雇用の教員歴を経るのが一般的である。そこではライバルとの競争は避けられない。首尾よく昇格するには、よい研究論文を書かなければならないが、研究には研究費がかかる。研究費は競争的研究資金であることが多く、まずは研究費を勝ち取らなければならない。学問の世界でも、競争がついて回るのである。

 競争が経済社会に及ぼすプラスの影響については、わざわざ言うこともないだろう。経済発展、研究開発、イノベーション、学問的発見などに対する競争の意義や役割は大きい。

 消費者にとっても、同じ製品がより安く手に入ったり、新しく高性能の商品が以前と同じ値段で買えるのも、しばしば企業同士の競争が原因である。教育やスポーツにおいて「頑張ろう」と考えて、実際に成果が上がるのも、ライバルとの競争が一因であろう。

現代社会は、競争原理の上に成り立っていると言うことさえできよう。

 一方、競争は不正を招く恐れがあることもしばしば指摘されている。

 最近相次いで発覚した有名・老舗企業による製品の安全に関するデータ改竄や、顧客との契約に違反するような低品質の製品の納入など、企業による不祥事は後を絶たない。産地を偽装した材料を使って、あたかも高級食材を安く提供しているように見せかけた事件が、有名レストランや一流と言われるホテルのレストラン、高級料亭などで頻発したことは記憶に新しい。

 また、スポーツの世界では、国家ぐるみと言われる違法なドーピング行為があったし、日本では、ライバルを陥れるために、その人の飲物に禁止物質を混入するという衝撃的な事件もあった。

 企業やスポーツ界ばかりでなく、研究者による不正も後を絶たない。STAP細胞事件はまだ数年前のできごとだし、東大教授による実験データの捏造・改竄事件もあった。

 このように、さまざまな世界で不正、不適切、いんちきな行為が引きおこされている。その原因はさまざまに考えられる(たとえば、倫理的価値観の欠如や低下、集団内の同調圧力、将来の保証されない短期雇用など)が、原因の一端として、当事者同士の過剰とも言える「競争」があることは間違いない。

 研究者の世界では、一応定年までの雇用が保障される教授や准教授になるまでには、助手や助教など短期雇用の教員歴を経るのが一般的である。そこではライバルとの競争は避けられない。首尾よく昇格するには、よい研究論文を書かなければならないが、研究には研究費がかかる。研究費は競争的研究資金であることが多く、まずは研究費を勝ち取らなければならない。学問の世界でも、競争がついて回るのである。

実験:競争が不正にどのような影響を及ぼすか?

 行動経済学者のアンドレイ・シュレイファーは、競争によって引きおこされる反倫理的な経済行動や慣習は予想外に多いと主張し、5つの例を挙げている(Schleifer,Andrei, 2004, Does Competition Destroy Ethical Behavior? American Economic Review, 94(2), 414-418.)。

 それらは、児童労働、汚職、経営者の過大な報酬、企業の収益の操作(ごまかし)、大学の商業活動である。コストを引き下げたり、株価や企業価値を高めたり、個人的な経済利得を増加させたり、優秀な受験生や教職員を獲得しようとする同業他社との競争が、上記の不正行為を引きおこす大きな要因であると、シュレイファーは考えている。(ただし、彼は、競争にはこのような問題がもあるが、総体的には長所の方が大きいとしている)。

 さて、行動経済学者や行動科学者は、競争が不正にどのような影響を及ぼすかについて、例によって実験によって確かめている。その中から、シュヴィーレンとヴェイクセルバウアーの実験を取り上げよう。(Schwieren,Christiane and Doris Weichselbaumer, 2010, Does Competition Enhance Performance or Cheating? A Laboratory Experiment, Journal of Economic Psychology, 31, 241-253).

彼らは、競争がない条件と競争がある条件で、不正行為がどの程度違うのかを調べることを目的として、実験参加者に、「迷路を解く」というコンピュータ・ゲームをやってもらった。

 参加者は、迷路を解き、解けた個数を自分で紙に記録して、実験者に申告する。競争のない条件では、参加者は正解した迷路1つにつき一定額の報酬と参加報酬を支払われた。

一方、競争条件では、6名で1グループが構成され、各グループでもっとも成績のよかった者にだけ報酬が支払われた。報酬額は「競争なし条件と同じ報酬額」×「グループの人数」となっていた。

 不正行為はいくつかの方法で行なうことができた。まず、ゲームには「自動プレイ」という機能があり、これを作動させるとコンピュータが自動的に正解を教えてくれる。

「経路確認」という機能もある。これは、参加者が間違った経路に進むと、間違いであることを教えてくれるものである。

 また、このゲームは難易度が5段階で設定でき、実際の実験は難易度2で行なったのだが、参加者が勝手に自分の解くべきゲームの難易度を、もっと易しいレベルに変更することができた。

 このように、迷路ゲームを解く際に、上に挙げた不正を実行することができ、さらに、記録紙に自分の解いた問題数を記入する際に不正を行なうこともできる。参加者は、2種類の不正を働くことができたわけである。
もちろん実験者は実験開始前に、参加者に対して不正行為は行なわないように指示している。

 参加者が不正を行なったかどうかを、実験者はどうやって確認したのだろうか。

実は、実験に用いたコンピュータにはスパイウェアが仕込んであり、参加者が実際にどんなキー操作を行なったのかがすべて記録されていたのである。

参加者はこのことはもちろん知らないし、実験者が不正の記録を入手できるのは実験終了後であった。

 この実験の結果はどうだったであろうか。実験参加者は30分与えられ、その間にだいたい30個程度の迷路を解いた。解いた迷路の実数と申告数の差は、競争のない条件では1.31であり(もちろん申告の方が多い)、それほど多いとは言えない。では、競争条件ではどうだったかというと、利用できるさまざまな不正方法を少しずつ用い、解いた迷路の申告数は実数を2.91個上回り、無競争条件の2倍以上になった。

 全体として、実験参加者はそれほど大きな不正を行なったという印象は受けないが、両条件の差は目立つ。競争条件では、非競争条件の場合に比べて2倍以上の不正が行なわれたからだ。

 さらに、シュヴィーレンとヴェイクセルバウアーは、成績と不正との関連を調べている。それによると、良い成績が挙げられなかった者は、成績が良い者に比べて、競争条件では不正をする程度がかなり高かった。「体面を保つ」という感情が働いているのでないかと推測している。

 競争が不正を引きおこしうることが実験的に確かめられたわけだが、次回は、競争が不正に及ぼす影響について、もう少し多角的に考えてみたい。