全社的なテレワーク環境の整備が、企業にとって急務

新型コロナウィルス感染者が再び増加していることを受け、改めてテレワークに注目が集まっています。緊急事態宣言の解除後に全員原則出社としていた伊藤忠商事は、社員の半数を在宅勤務とする体制へと方向転換しました。在宅勤務を常態化し、オフィス面積を削減しようとする大手企業も増えています。政府は社員のテレワーク率7割を目指すよう経済界に要請する考えを示しており、全社的なテレワーク環境を整備することが、今、企業にとって重要な経営課題となっています。不安定な社会において、状況に応じて働き方を柔軟に切り替えられる体制を整えるためには、何が必要なのでしょうか。今回は、前回に引き続き、組織全体の生産性を向上させるテレワークについて、考えてみたいと思います。

レベル3: 間接業務を含めた社内業務の多くをテレワークで行うことができる

政府要請のように常に社員の7割がテレワークで滞りなく働ける状態をつくるためには、会社全般の業務プロセスが電子化されていなければなりません。組織全体がテレワークに移行できるかどうかの鍵を握っているのが、いわゆる「間接業務」です。Web会議の仕組みやセキュリティ対策がどんなに整っていたとしても、一部の業務が紙で運用されていれば、テレワークでの業務の流れが途絶えてしまい、途端に生産性が低下します。稟議申請、押印による承認、請求書や契約書の処理、経費精算などの、テレワークを阻害する要因となっているアナログな業務を電子化し、リモートでも対応可能なワークフローに変えていくことが、より生産性の高い働き方を実現することにつながります。

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・電子稟議

企業活動の多くは、申請・承認のプロセスで成り立っていると言っても過言ではありません。稟議書で扱われる内容は、取引契約関連、購買・調達関連、投資関連、人事関連など多岐にわたります。もしこの稟議書が紙で運用されていれば、申請や承認のために出社しなければなりません。承認ステップが5階層ある場合は、紙の稟議書を5人に回覧させる必要があり、もし誰かが長期間不在であれば、最終決裁までに非常に時間がかかることになってしまいます。

電子稟議システムは、申請・承認のプロセスをシステム上で完結できるサービスです。申請の種類に合わせた承認ルートをあらかじめ設定しておくことができるため、申請者は書類のフォームに必要事項を記入し、ボタンを押すだけで申請作業を済ませることができます。申請が行われると承認者のもとに通知が届きます。承認者はシステム上で内容を確認し、問題がなければ承認ボタンを押せば業務完了です。

電子稟議システムでは、申請者・承認者本人が個別のIDでシステムにログインしていることが前提となるため、権限のない人が勝手に承認を行うことはできません。承認者が承認ボタンを押すだけで、「申請者本人」が、「何月何日」に承認したという、紙の申請書に日付印を押すのと同じ役割を担うことができるのです。稟議・決裁業務を電子化すれば、いつでもどこでも申請・承認ができるようになり、意思決定にかかる時間は大幅に短縮されます。電子稟議を導入することで、テレワークの生産性は飛躍的に向上します。

意思決定の迅速化のほか、電子稟議を導入するメリットには次のようなことが挙げられます。

■ステータス管理が可能
紙の稟議書では、申請者は自分の提出した稟議書の状況を知ることは困難ですが、電子化すれば、状況をすぐに把握できます。いつ誰が何を申請し、どのような流れで誰が承認を行ったのかを一覧で確認することも可能です。

■内部統制
電子稟議システムを導入すれば、いつ誰が書類を閲覧したのか・承認したのかといった情報(証跡)を残すことができ、不正の抑止につながります。また上場審査では、決裁権限が適切に運用されているかも重要なポイントとなっています。改ざんの防止や早期の不正発見など、内部統制を目的に電子稟議システムが導入されるケースが増えています。

稟議の電子化がなかなか進まない、もしくは諦めてしまう主な原因に、複雑な承認フローが挙げられます。扱う内容や金額によって承認フローやルールが異なり、そのバリエーションが数十から数百パターンにもおよぶという企業も存在するようです。電子稟議システム導入の目的は、稟議書という書類を電子化することではなく、承認のプロセス、いわゆるワークフローを最適化することにあります。電子化することをきっかけに、現在の業務フローがそもそも効率的であるのかを見直すことも、非常に重要です。

なお、稟議システムとは別に、経費精算・労務管理・営業管理などの業務システムが申請・承認のフローを備えている場合も数多くあります。まずは対象業務を絞ってスタートしてみるのもよいかもしれません。

・電子署名

新型コロナウィルスによるテレワークでは、書類にハンコを押すためだけに社員が出社する「ハンコ出社」という言葉が話題となりました。従来の紙の契約書は、押印やサインをすることで、その書類が改ざんされていない正式な原本であることを証明していました。最近では請求書などの書類については、PDFなどの電子文書でやり取りする機会が増えています。一方で、代表印が必要な契約書などについては、郵送された書類に代表印を押印し、返送している企業が多いのではないでしょうか。

電子署名は、電子文書が正式なものであることを証明するサービスで、代表印を押すのと同じ役割を果たすことができます。通常、代表印は社内で厳重に管理されているため、紙の書類に代表印を押す業務をテレワークで行うことは基本的にはできません。しかし、電子署名を使えば、代表印が必要な書類を電子文書でやり取りすることが可能になり、場所を選ばず業務を行うことができるようになります。

2001年4月1日に施行された「電子署名法」では、電子署名が手書きの署名や押印と同様に通用することが法的に認められました。電子署名は、署名だけでなく第三者機関(電子認証局・時刻認証局)を通じて発行された電子証明書の発行が必要です。電子証明書を取得するには事前の登録が必要となり、発行には数週間かかります。そのため、頻繁にやりとりする書類というよりは、紙であれば実印が求められるような非常に重要な書類に対して利用されることが多いようです。

最近では、電子証明書などを取得せずにすみ、より手軽に利用出来る「立会人方式」という電子署名が主流となりつつあります。立会人方式は、当事者同士の合意が成立したことを、当事者ではなく第三者が電子署名をして証明する方法です。法的効力は弱いとされていましたが、先日、政府が新たに公表した見解では「立会人方式」でも法的に有効となる方向性が示されました。立会人方式による電子署名は、国内では弁護士ドットコム社やアメリカのドキュサイン社などがサービスを提供しています。ドキュサイン社は最近、ビデオ会議システムを使って公証人の立ち会いが必要な契約書を作成できる仕組みを提供する企業の買収を発表しました。リモート環境でもさらに迅速に効率よく、さらに信頼性の高い契約業務を進めることができる新たなスタイルが生まれそうです。

・電子稟議と電子署名の連携

さて、ここで重要なのが、電子稟議システムと電子署名システムが連携されていることです。電子署名を利用すると、取引先から代表者に直接メールで署名の依頼が来ます。電子稟議と電子署名が連携されていないと、代表者はその契約書が社内でちゃんと承認されたのか、どのようなプロセスで承認されたのかを知ることができず、署名をしてよいのかどうかがわからない場合があります。そこで改めて承認内容を確認しようとすると業務が非常に煩雑になり、電子稟議を導入したメリットが感じられなくなってしまいます。一方、電子稟議システムと電子署名システムが連携されていれば、契約書と電子稟議のURLが紐づけられ、代表者はその契約がどのような経緯で承認されたのかを一目で確認することができます。見落としがちなポイントではありますが、電子稟議と連携した電子署名サービスを導入することで、成熟度の高いテレワークを実現できるのです。

・経費精算

経費精算も紙文化が根強く残っている業務の一つです。立て替えた経費をエクセルなどに入力し、領収書の原本を添付して上長が承認印を押す、などの業務が行われている限り、経理担当者はテレワークで仕事を進めることができなくなってしまいます。

2016年には電子帳簿保存法が大幅に緩和され、スマートフォンで撮影した領収書などが電子データとして認められるようになりました。2020年10月にはさらなる規制緩和が実施され、キャッシュレス決済の場合には領収書が不要となり、デジタルデータの利用明細のみの保存が認められるようになります。法人カードや会社用スマートフォンでキャッシュレス決済を行えば、経費精算の自動化も可能です。今回の法改正は、リモートワークを推進する大きな後押しとなることは間違いないでしょう。

業務が電子化されているだけでは不十分!?

上記のほか、以前のコラムで紹介した勤怠管理や工数管理など、さまざまな業務が電子化されれば、いつでもどこでも情報共有や意思決定が可能になり、社員がオフィスに集まって働くのと同等、もしくはそれ以上の生産性を実現できます。

しかし、一つ問題があります。もし勤怠管理・経費精算・工数管理・稟議がそれぞれ異なるアプリケーションだった場合には、部下から来た申請を承認するマネージャーは、承認依頼の通知が届くたびに別のアプリを立ち上げて承認作業をしなければなりません。人事担当者や経理担当者も結局は、月末に各アプリから必要なデータを抜き出し、エクセルなどで加工して集計することになります。アプリが異なれば、タスクの管理も大変です。複数のアプリがシームレスに連携されていなければ、業務がむしろ煩雑になり、「紙の方がマシ!」ということになりかねません。電子化して満足するのではなく、組織を横断して複雑に絡み合うさまざまな業務をワンストップで実行できるようなアプリ、あらゆる情報を一元的に管理できるようなアプリを活用することが、テレワーク推進の大きなポイントとなります。

TeamSpiritは勤怠管理・工数管理・経費精算・電子稟議など、従業員が毎日行う業務が一体になったクラウドサービスです。ワークフローベースでシステムが構築されているため、勤怠管理や経費精算などで必要な申請から承認までの流れや、稟議・決裁の流れをそのまま電子化することができます。

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TeamSpirit内ではさまざまなデータが連携しているので、プロジェクトや取引先などに関連した稟議の作成や経費精算も、効率的に行うことができます。もちろん、スマホやタブレットなどマルチデバイスで稟議を承認したり、差戻しや代理申請・代理承認を設定したりすることも可能です。長期化する「ウィズ・コロナ」時代を乗り越えるためには、緊急対応としてのテレワークではなく、生産性を向上するための働き方改革の一つとしてのテレワークに取り組まなくてはなりません。「紙文化+出社して働く」という価値観から脱却し、あらゆる業務を電子ファイルベースで進められる環境へと移行することは、従来の働き方に関する課題を根本から解消することにもつながります。大変な時代ではありますが、今こそ変革のチャンスととらえ、ぜひレベル3のテレワークを目指してみてはいかがでしょうか。