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前回は、「意味がある」あるいは「やりがいがある」ことをするのが、仕事の大きなモチベーションとなっていることを見た。当然であるが、モチベーションを与えるのは、金銭的なインセンティブだけではない。これは当たり前に見えるが、経済学も経営学もきちんと追究してこなかったテーマではないだろうか。成果主義の導入が検討され、政府が主導する「働き方改革」では、労働時間の短縮がもっぱら論じられていた。しかし、仕事にとって、「やりがい」は何と言っても重要なテーマである。前回に引き続き今回から数回にわたって、働くことの意味を考察する実験的研究を中心に、考えてみたい。

チャンドラーとカペルナーの研究

仕事の意味ややりがいが成果に影響を及ぼすことはよくわかる。では、成果を挙げれば報酬が増えるといった金銭的インセンティブや、あるいは成果を挙げることで評価されるとか誉められるといった、働く人にモチベーションを与えるであろう手段と仕事の意味との関係はどうなのだろうか。

まず、仕事の意味、その大小が仕事の成果にどのような影響を及ぼすかについて、実験室ではなく現場に近い状況(フィールド実験という)で確かめたチャンドラーとカペルナーの研究を見てみよう。

彼らは、アマゾンのメカニカルタークを用いて、ワーカーを募り、仕事をしてもらった。実験にはアメリカとインドから2471人が参加したが、彼らは実験に参加していることは知らされなかった。ワーカーは、90個の細胞が映った画像を見て、その中から腫瘍と考えられるものをチェックするという仕事をした。もちろん最初にやり方は指示されている。

参加者(ワーカー)たちは、有意味条件、中立条件、および無意味条件の3グループに分けられた。有意味条件では、参加者は、この仕事は科学者の研究を助け、人の命を救うことにもつながる大きな意味があると説明され、また課題解決に参加してくれたことを感謝された。

一方、無意味条件では、課題は大した意味はなく、成果は残されずに破棄されると言われた。中立条件では、そういった説明は一切なく、単に課題が説明されるだけであった。どの条件についても課題を達成した数に応じた報酬が支払われた。前回のアリエリー実験と同様に、一作業あたりの報酬はだんだんと減っていく。

すべての参加希望者は、ビデオで仕事や報酬についての説明を受けた後、実際に参加するかどうか決めることができ、その時点でやめることもできた。

結果はどうだったであろうか。有意味条件と無意味条件の二つの条件の場合に、この仕事への参加者数、腫瘍細胞としてチェックした数、チェックの質および参加者が得た平均報酬額が、中立条件の場合と比べてどの程度多かったか、あるいは少なかったのかが表1に示されている。

表1 中立条件と比較した有意味・無意味条件での結果

 

参加者

5個以上のチェック

質の良さ

平均報酬

有意味条件

4.6%+

8.5%+

0.7%+

4.5%-

無意味条件

4.0%-

2.8%ー

7.2%-

5.6%+

中立条件に比べて、有意味条件では、参加者は多く、成果の量は多く、質もよくなっている。報酬額が少ないということは、たとえ単価が小さくても意味があるから課題をこなそうと、参加者が考えていたことを意味する。

他方、無意味条件では、それとはまったく逆のことが起こっている。すなわち無意味でもお金が稼げるから課題をやろうと考えていたのだろう。仕事にとって、意味があるかどうかがきわめて重要であることが示唆される。

行動経済学者のコズフェルトらの研究

もう一つ、意味や金銭的インセンティブ、評価の間の関係について実験研究を行なった、行動経済学者のコズフェルトらの研究を取り上げよう。

彼らは、仕事に対する意味の大小が成果にどのような影響を及ぼすか、および意味の大小と金銭的インセンティブの関係、意味と評価との関係を実験的に調べた。

具体的には、中国の大学で学生を雇い、中国への移民家族の親子関係に関する調査結果をコンピュータ・データベースにするという仕事を依頼した。仕事自体はそれほど面白いとは感じられないことが確かめられている。

まず金銭的インセンティブの対照群として、参加報酬だけのグループがある。次に、参加報酬プラス課題1つにつき一定額の成果報酬が得られる金銭的インセンティブ・グループを作る。さらに、評価条件として、参加報酬プラスもっともよい成果を挙げた人を評価するというグループがある。評価は、課題終了後にもっともよい成果を挙げた参加者に、全員の前でスマイルバッチを渡すという簡単なものであった。

さらに、意味に関しては、有意味であるがその程度が大きいグループと、意味が小さいグループがある。意味が大きいグループには、彼らが入力したデータは、研究プロジェクトに直接役立つと言われ、意味が小さいグループには、データは既に入力済みで、新たな入力はそのチェックのために用いるだけであって、研究プロジェクトには直接役立つことはないと言われた。

実験の結果を見てみよう。まず、金銭的インセンティブも評価もない場合に、意味の大小が成果にどの程度影響を及ぼすかである。意味が小さいグループの平均データ入力数は1598であり、意味が大きいグループのそれは1845であった。この差は統計的に有意であり、仕事に与えられた意味の差が、仕事の成果の差に直接表われていることがわかった。

次に、意味の大小や金銭的インセンティブの有無が成果に及ぼす影響を示したのが、表2である。
表2には、意味が小さい場合に比べて意味が大きい場合に成果がいくつ増えたのかが、上段には数値、下段には割合で示されている。金銭的インセンティブと評価については、それらがない場合との比較が示されている。

表2からわかるように、意味の大小と評価の有無は、成果に対して大きな影響を及ぼすことがわかる。ただし、意味の大小と評価の有無との影響の間には有意差はなかった。また金銭的インセンティブの有無は、確かに影響を及ぼすが、それほど大きくはないことがわかる。

表2 意味の大小や金銭的インセンティブの有無が成果に及ぼす影響

 

意味大

金銭的インセンティブ

評価

成果増加分(平均)

247

138

291

15.5

8.7

18.2

さらに彼らの研究では、金銭的インセンティブは、仕事の意味の大小に関わらずプラスの影響を及ぼすことがわかった。また、評価は、意味が小さいときだけ成果を増加させることもわかった。意味と評価は、代替的な影響を及ぼすのである。つまり、意味が大きいときには評価は成果に影響を及ぼさず、意味が小さいときだけ影響するのである。

このような研究により、仕事の意味、それと金銭的インセンティブの関係、優秀な仕事に対する報奨などの評価に関して理解が進めば、経営現場だけでなく経済政策を考える上でも、大きな示唆が得られるであろう。

参考文献

l Chandler,Dana and Adam Kapelner, 2013, Breaking Monotony with Meaning: Motivation in Crowdsourcing Markets, Journal of Economic Behavior and Organization, vol.90, pp.123-133.

Kosfeld,Michael, Susanne Neckermann and Xiaolan Yang, 2016, The Effects of Financial and Recognition Incentives across Work Contexts: The Role of Meaning, Economic Inquiry, doi:10.1111/ecin.12350