bikeshare_hosoya_660.jpg

前回記事ではICTの普及による個人の「格付け」によって人々の行動パターンが変わってくるということをお話しました。今回も、ICTが人間の行動パターンと社会全体を大きく変え、社会問題も解決する可能性があるツールであることを、IoTという技術を例に取り上げたいと思います。

バイクシェアに見る第4次産業革命の社会的インパクト

中国ではMobikeやofoといったバイクシェアサービス*(街中での自転車のシェア)が爆発的に普及し、北京等の大都市では、ありとあらゆると言っても良い路上にオレンジや黄色の自転車が置かれ、市民の足として利用されています。
*日本でも2017年より一部の都市でこれらのサービスが開始されています。

このようなバイクシェアに関しては、既に日本でも数年前から様々な地域で普及が進んでいますが、それらの大部分との大きな違いは、特定のステーションのみで貸し借りが出来るのではなく、「ほぼどこでも」乗り降りが可能だということです。

もちろんこれは国によって異なる交通・道路事情や規制等の制約もあるために簡単にその差を論じられるものではありません。しかし、この違いは単に貸借の簡便性といった表面的な差以上に大きなことにつながります。
それはIoTという現在の第4次産業革命のコアとなる技術の社会へのインパクトを示唆していると考えられるからです。

「ある時は顧客、ある時は納入業者になる」という利用スタイルに

まずはIoTによって、バイクシェアに場所という管理の単位の「小分け化」という概念が持ち込まれます。これまでは特定の管理場所のみで扱いが可能だったものが「どこでも」貸し借りが可能になるのは、IoT+GPSによってどこに自転車があるかが、スマホさえあればリアルタイムで簡単に把握が可能になったからです。

同様に距離毎の課金(超低額でも)も簡単になったので、「ちょっと駐車場まで200mだけ」乗るといった使い方も可能になっています。

このような乗り方が可能になると、特定の場所に自転車が滞留してしまうのではないかという懸念が出るかと思います(坂の下り方向だけ乗る人が多いとか)。

もちろん「定期的にまとめて移動する」のがその解決策ではありますが、さらに「場所ごとに値段を変える(場合によっては無料にする)」ことによってある程度はその差をコントロールして分布を平準化させることも可能になります。これはUber等が採用しているサージプライシング(時間によって、例えば混雑時間は単価が1.5倍になる)とも同様の課金方法です。

このような値付けの仕組みを将来的にさらに進めていけば、時間帯や場所によっては「お金を払って移動してもらう」ことも値付けのコントロールによって可能になるはずです。

要は一人の人が「ある時は顧客、ある時は納入業者」という変化を、値付けをプラスにしたりマイナスにしたりすることでリアルタイムに実現できてしまうのです。

さらにこれを進めれば、飲食店の食事や使用済食器の運搬も「運んだ人(片付けた人)は割引」というのが「顧客ごとに(さらには来店ごとに)」実現可能になります。したがって、どうしても人手が足りなくなったらこの「片付け単価」を上げればお店のスタッフの仕事を一部顧客が代替するということも可能になるはずです。

必要なスキルを、必要な場所とタイミングで

「単価をリアルタイムかつ場所ごとに変える」というのは、例えば交通渋滞や通勤ラッシュの解消にも(単にポスターを貼ったり「呼びかけたり」するだけでなく)有効な手段として用いることができるでしょう。

さらには会社の給料を場所と時間を「必要なスキルを必要な場所とタイミングで」調達したい場合にも応用が可能になってきます。わかりやすい例として、会社員の出張時の行動パターンは、出張経費の宿泊費の精算が「定額の日当制」か「実費制」かによって変わります(定額ならなるべく安くして宿泊費を浮かせようという人が多いのに対して、実費だと限度額内でなるべく高いところに泊まろうとする人が多くなる)。

このように、ちょっとした「値付けの違い」は簡単に人の行動パターンを変えます。それが大量の人に波及すれば、大きな社会変化となって現れ、社会問題の解決策につなげることができる。IoTはそんな大きな可能性を持っています。

当然「働き方」という課題についても「人々の行動パターンをいつのまにか抜本的に変えている」大きな変革の実現手段としての期待ができます。