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昨今、結果的に生産性を落とすことになりかねない長時間労働を抑制したり、さらに踏み込んで、始業や終業時間をフレキシブルに設定するフレックスタイムを再検討するなど、多くの企業が長時間労働是正や多様な働き方の実現に向けた取り組みを進めている。

こうした動きは、効率性や生産性の向上、人材確保の観点からもますます加速していくことだろう。

一方で、これまで"無頓着"だった「前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定の休息時間をしっかりと確保すること」を目的とした「勤務間インターバル」についてはどうだろうか? ここでは、その点について考えてみたい。



- 勤務間インターバル制度とは?〜働き方改革とどう関連するか〜

勤務間インターバルは、勤務の間に十分な休息時間を確保することで、生活時間の充実や睡眠時間を確保できる可能性を広げるものだ。

厚労省では、次のような図解で仕組みを解説している。

勤務間インターバルの図【出典】厚生労働省 労働基準局

また、2017年3月、「働き方改革実現会議」で決定された「働き方改革実現計画」によると勤務間インターバル制度の導入について、次のように示されている。

労働時間等の設定の改善に関する特別措置法を改正し、事業者は、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息の確保に努めなければならない旨の努力義務を課し、制度の普及促進に向けて、政府は労使関係者を含む有識者検討会を立ち上げる。

また、政府は、同制度を導入する中小企業への助成金の活用や好事例の周知を通じて、取り組みを推進する。

これを受け、厚生労働省では「職場意識改善助成金(勤務間インターバル導入コース)」という助成事業を行うなどで普及推進を推し進めているようだ。

ちなみに、この勤務間インターバルをすでに導入している地域としてEUが挙げられる。1993年に制定された「EU労働時間指令」は文字通りEU各国の労働に関する共通ルールだが、これが2000年に改正され、次のような内容が定められた。

<EU労働時間指令>

  1. 24時間につき最低連続11時間の休息期間を付与

  2. 6時間を超える労働日につき休憩時間を付与(付与条件は加盟国の国内法や労使協定で規定)

  3. 7日毎に最低連続24時間の週休及び11時間(1日の休息期間)の休息期間を付与

  4. 1週間の労働時間について、時間外労働を含め、平均週48時間以内の上限を設定(算定期間は4カ月)

  5. 最低4週間の年次有給休暇を付与

※なお、週48時間労働の特例規定を設け、労使間(労働者はこの場合、個人)の同意など、一定の条件を満たせば、4カ月平均週48時間を超えて働くことができる、ともしており、そのルールを採用する国もある。
※上記に加え2004年には、週48時間労働制の適用除外要件の厳格化、待機時間に関する新定義の導入、代償休息期間の付与期限の設定などの労働時間指令の改正案を発表した。


(参考:
駐日欧州連合(EU) 代表部が発行する日本語のウェブマガジンEU MAG
労働時間や非正規雇用に関するEUの規則とは?

独立行政法人労働政策研究・研修機構
労働時間と働き方:EU労働時間政策とワーク・ライフ・バランス

こうした先進事例を受け、この制度を試験的に導入した日本企業の事例がメディアで取り上げられたり、ネット上で「勤務間インターバルを11時間取るには何時に仕事を終え、何時に出社することになるのか?」といった議論が活発化し、「勤務間インターバル」が話題となった。ご記憶の方もいらっしゃるだろう。

- はたして「勤務間インターバル制度」は普及するのか?

では、勤務間インターバル制度はどれくらい日本の企業になじむだろうか? 厚生労働省が民間に委託しておこなった調査によると、制度を「導入している」と回答した企業はわずか2.2%。導入していない企業の意向としては、「導入する予定である」と回答した企業は0.4%、「導入の是非を検討したい」と回答した企業も8.2%。一方、「導入の是非を検討する予定はない(60.5%)」「いずれでもない(29.3%)」が圧倒的だ。

なぜ、導入が進まないのか? その理由としては、マネジメントの難しさや出退勤および勤怠管理の複雑化に対応できない、などが真っ先に挙げられるだろう。

たとえば、「チームで遂行する仕事で、ある人が前日に残業を行ったため、今日は夕方からの出社になる。となれば、その人が出社するまで仕事が進まず、全体の仕事のスケジュールを見直す必要がでてくる」という混乱がマネジメント層からは湧いてくるだろうし、人事管理を担う部門からは「どう勤怠管理したらいいのか、残業代を含め、給与をどう設定して考えるべきか...」と頭を悩ませる声が聞こえてきそうだ。もちろん、こうした懸念点を挙げだせばキリがないだろう。さらに、そもそも導入が難しい業態も考えられる。

つまり、実際に取り組むとなると、人事制度設計の再考と現場の意識改革が不可欠であり、それを推進するにはかなりの熱量が必要になると想像できるだろう。

- むしろ、本当に「勤務間インターバル制度」でいいのか? という議論も必要ではないか?

長時間労働の是正を目的とするのなら、確かに勤務間インターバル制度はある程度の結果を見込めるだろう。

だが、本当に働くひとたちが実践しやすいのか? 「出社時間を厳守する」というこれまでの習慣と、「出社時間は決められたもの」という固定観念を払拭することは、容易ではないように感じられる。

また、制度導入により、管理部門のリソースを逼迫させたり、労基法等への抵触や隠れ残業などのリスクを生じさせないだろうか? という疑問も残る。

もし、生活の質を向上させることが目的ならば、たとえば「夕方は買い物に行きたい」「ちょっと仕事が落ち着いている時間に、ジムに行きたい」「急に眠気がおそってきたからマッサージに行って、1時間だけマッサージされながら寝てスッキリしたい」という働く人の希望を叶えやすくする仕組みを創出する方が重要ではないだろうか。

ある日、あるとき、突然に「ちょっとだけ中抜けしたい!」という気持ちになることは決して不思議なことではないはずだ。仕事をする上で、一度問題から遠ざかって、完全にリフレッシュすることがいかに大切か、多くの方が実感をもって想像できるだろう。

そうした突発的とも言える"自由さ"を、事前に申告・稟議・裁可しなくても実行できる働き方であり、勤怠管理のあり方を、この機に考えてみる方が実情にフィットするのではないだろうか?

- 「時間休暇」という考え方はどうだろうか?

現在、前述のようなことを行うには、全日または半日の有給休暇が充てられることが多いだろう。そうした手段は当然ながら、悪手ではない。

だが、「家族が病気になって数日間休む」「風邪の重い症状で出社できない」といった予測不能な休暇が取れなくなる恐れがあるので、働くひとたちにとっては気軽に取り得ない手段であることも確かだ。これが有給休暇の取得率向上の足かせになっていることは、周知の通りだ。

だが、出社して、ある時間退社して、再度個人の「よいタイミング」で出社するようなことができる「時間休暇」が実践できたなら、状況は少し変わってくるだろう。

まず、実行するにも(根回しや気配りが必要だったとしても)その日のうちに再び業務に戻ることが前提となっているので、利用時の心理的ハードルが下がると考えられる。有給休暇をゆるやかに消化することになるので、ある程度の"リスクヘッジ"にもなるだろう。管理部門側としては、有給休暇の取得率向上に一役買うことになる。

ただし、これを行うには、勤怠管理のシステムを抜本的に見直す必要が出て来る。たとえば、タイムカードの打刻の仕組みや、表計算ソフトで管理をするとなると、実現が困難なことは間違いないだろう。管理が煩雑すぎて、それこそ管理部門のリソースを逼迫させかねない。

- だが、ITのチカラなら解決することは可能だ

朝出社打刻を行い、その後一旦退社打刻をして自由な時間を過ごしたあと、再び出社打刻をするといった仕組みを導入することは、勤怠管理のクラウドサービスを利用すれば難しいことではない。

勤怠管理/工数管理/経費精算/電子稟議/ダッシュボード機能をひとつにしたクラウドシステム「TeamSpirit」は、1日のうち何度出退勤打刻しても正確に労働時間を計算する機能をすでに有している。その出退勤打刻画面にチャット機能がセットされているから、気軽に「ちょっと中抜けします」と周知すさせることも簡単になるし、もしものことがあって他のひとが連絡を取らなければならない状況になったとしても、同じくチャット機能を使ってコミュニケーションを取ることができる。

こうしたシステムの良さを最大限に生かすことは、柔軟性をしっかり残しつつも、しっかりとしたマネジメントのできる環境を作り出すことに繋がるだろうし、働くひとも実情に合った制度として活用できるのではないだろうか。


勤怠管理画面

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text:働き方改革研究所 編集部