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裁量労働制とは

最近よく耳にする「裁量労働制」も「みなし労働時間制」の一種です。

労働時間と成果・業績が必ず比例しない業種において、労働時間の計算を実労働時間ではなく、あらかじめ労使間で決めたみなし時間で行うことを認められた制度で、大きな特徴としては出退勤時間の制限がなくなり、成果(出来たもの・達成したもの)などが評価の対象になります。

企業の取材をしていると「うちは『裁量労働制』を採用しているので、働いた時間よりも成果が評価されます」というような話を聞くことが多いのですが、実は裁量労働制を適用できる職種も非常に限られています。

時間にとらわれず、成果を追求するという意味では魅力的な制度ではありますが、残業代削減や労働時間管理の簡略化の一貫として、本来適用対象外である従業員にもあてはめて運用している企業も少なくはないようです。

是非もう一度制度の内容を確認し、正しく運用されているかどうかを確認しましょう。

現在、裁量労働制の適用が認められているのは次の2種類です。

◎専門業務型裁量労働制
◎企画業務型裁量労働制

◎専門業務型裁量労働制とは

「専門業務型裁量労働制」は、その業務の専門性から、業務の遂行方法を大幅に労働者自身の裁量に委ねる必要がある業務にのみ認められます。

適用できるのは、厚生労働大臣が中央労働委員会によって定めた19の業務に限られます。

例えば

  • 新商品もしくは新技術の研究開発または人文科学もしくは自然科学に関する研究の業務
  • コピーライター
  • システムコンサルタント
  • ゲーム用ソフトウェアの創作の業務

など。その他の職種については、こちらをご参照ください。

厚生労働省 「専門業務型裁量労働制」
http://www.mhlw.go.jp/general/seido/roudou/senmon/

専門型裁量労働制を導入するためには、その事業場の過半数労働組合、それがない場合には過半数労働者の代表者と労使協定の締結・届出が必要です。

◎企画業務型裁量労働制

「企画業務型裁量労働制」は、企業の中核を担う部門で企画立案などを自律的に行う労働者に対してのみ認められます。

企画業務型裁量労働制を導入することができる事業場は次の3つに限定されています。

  • 本社、本店である事業場
  • その事業場の属する企業の事業運営に大きな影響を及ぼす決定が行われる事業場
  • 独自にその事業場の事業運営に大きな影響を及ぼす事業計画や営業計画の決定を行っている支社等の事業場

導入にあたっては、労使委員会を設置し、5分の4以上の多数決を決議するなど、専門業務型裁量労働制より厳格な要件が設けられています。

適用対象としては、「事業運営上の重要な決定が行われる企業の本社などにおいて企画、立案、調査及び分析を行う労働者」とされているので、新卒やまだ職務経験の浅い社員については、たとえ労使委員会での対象労働者として決議されたとしても、その対象とすることはできません。

詳しい内容については、下記資料をご参照ください。

厚生労働省 東京労働局 「企画型裁量労働制」の適正な導入のために
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/library/tokyo-roudoukyoku/jikanka/201221613571.pdf

裁量労働制とフレックスタイム制の違い

「裁量労働制」では、時間管理が個人の裁量に任せられます。出退勤時間に制限がないということで、フレックスタイム制を思い浮かべた方もいるかもしれませんが、裁量労働制とフレックスタイム制は全く別の労働形態です。

以前に紹介したフレックスタイム制は、1日の出退勤時間をフレキシブルにして、月・週ベースで労働時間を清算しますが、給与計算のベースは実労働時間です。一方、裁量労働制は、「月の労働時間は○時間とする」というようにあらかじめ設定されたみなし労働時間によって給与が計算されます。

裁量労働制と高度プロフェショナル制度との違い

今回の「働き方改革法」により、「高度プロフェッショナル制度」が新設されました。高度プロフェッショナル制度とは、裁量度の高い働き方をしているホワイトカラーに対して、企業による時間管理の枠を外して、自由に働いてもらおうという人事制度です。賃金は労働時間ではなく仕事の成果に応じて支払われます。現時点では、対象は年収1,075万円以上の高度専門職、例えば金融商品を開発する人やアナリストなどが想定されています。

裁量労働制と高度プロフェッショナル制度の大きな違いは、裁量労働制では休日や深夜労働に対しては残業代が支払われますが、高度プロフェッショナル制度ではこの支払い義務も生じません。休みであろうが真夜中であろうがどれだけ働こうが、企業は割増賃金の支払い義務がない、というのが高度プロフェッショナル制度です。

「働き方改革関連法」による労働時間の状況の把握の義務化

労働基準法においては、労働時間、休日、深夜業等について規定を設けているこ とから、使用者は、労働時間を適正に把握するなど労働時間を適切に管理する責務を有しています。しかしこれまでは、裁量労働制の適用者のほかに、いわゆる「管理監督者」とよばれる労働者(労基法41条2号)は適用対象外でした。

 ・管理監督者とは?
「管理監督者」は労働時間、休憩及び休日に関する規程の適用除外となるため、1日8時間の法定労働時間を超える労働をしても「残業」とはならず、企業は割増賃金を支払う必要がありません。ただし、深夜割増賃金は支払う必要があります。

 「管理監督者」については、その要件に該当しないにも関わらず、社内の管理職に当たる労働者を「管理監督者」とみなして残業代の支払いから逃れようとする企業が相次ぎ、大きな問題となりました。いわゆる「名ばかり管理職」問題です。

割増賃金を適正に支払うため、また長時間労働による健康被害を避けるため、2019年4月1日から、すべての人の労働時間の状況が客観的な方法その他適切な方法で把握されるよう、法律で義務づけられます。

時間で成果を判断するのが難しいクリエイティブな職種が増え、また働き方も多様化している今、これまでのような労働時間に依存した給与計算方法では、実際の仕事の成果や能力と見合わないというようケースが増えています。能力のある人は無駄に長く働かなくても高い報酬を得られる、という仕組みが求められているのも事実です。

「みなし労働時間制」を活用すれば、自由で柔軟な働き方が実現できますが、会社にとって都合がよいかどうかだけを考えた運用をしてしまうと、法律違反や労働者にとって不利益となる可能性があります。実際に様々な問題が起きていることから、今回労働時間の把握が義務化されました。

労働時間の把握にあたっては、原則として「使用者が直接確認する」、「タイムカード・ICカード・パソコンのログ」などの客観的な記録を用いることとされており、労働者からの自己申告制は例外的な措置となります。基本的には何らかの勤怠管理システムを用いるなどして、厳密に記録を取ることが求められます。裁量労働制などを採用し、自由な働き方を確保することは大切なことですが、出退勤の記録は正しく残す、残業については事前申請・承認を必須とするなど、しっかりとした枠組みで運用することが重要です。

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