2016.04.26

急増する女性データサイエンティストは
シリコンバレーに何をもたらすのか

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「Structure Data」に登壇した女性データサイエンティストたち。左からネハ・ナーキッド(Confluent)、エバ・チェ(Netflix)、ジューン・アンドリュース(Pinterest)

 国内で開催されるIT系のカンファレンス、とりわけインフラに近いエンタープライズ系のイベントでは本当に女性の参加者が少ないが、これは米国でもそれほど事情は違わない。具体的なイベント名を挙げると、たとえばマーケティングやビジネスユーザーの参加が多い米Salesforce.comの「Dreamforce」や欧州SAPの「SAPPHIRE」、米Teradataの「Universe」などは女性率が4割近いように思える。

 一方、エンジニアや運用管理者が多く参加する米Amazon Web Services(AWS)の「re:Invent」や、Hadoop系カンファレンスである「Hadoop Summit」などは1万人近い参加者を集めながら、女性の姿を見かける機会はあまり多くない。おそらく2割にも達していないのではないだろうか。もっとも最近は開発系のイベントでも、女性限定のBOF(birds of a feather)やセッションを用意するなど、女性参加者を増やす取り組みを積極的に行っており、徐々に改善される気配はある。

 昨年、筆者は本連載において「シリコンバレーという土地は男尊女卑の空気がかなり強く残っている」と書いた(連載記事)。その状況は現在もそれほど大きく変わってはいないように思う。だが、この3月にサンフランシスコで開催された「Gigaom Structure Data 2016」というビッグデータをテーマとしたカンファレンスを取材した際、去年とは明らかに異なるひとつのトレンドがシリコンバレーに生まれつつあることを感じた。女性データサイエンティストの数が劇的に増えているのだ。

 これは単に筆者の感覚だけに基づく推測ではない。Structure Dataは世界でもトップクラスのデータサイエンティストが登壇することでも知られているが、今回は若い世代の女性の参加者や登壇者が以前にもまして増えている。

 米Netflixでビッグデータプラットフォーム部門を統括するエバ・チェ(Eva Tse)、米LinkedIn出身で現在はConfluentというビッグデータ系スタートアップのCTOを務めるネハ・ナーキッド(Neha Narkede)、米YelpやLinkedInでデータサイエンティストとしてのキャリアを積み、現在は米Pinterestのデータサイエンティストとして活躍するジューン・アンドリュース(June Andrews)など、データサイエンスの最前線で活躍する女性たちが登壇し、百戦錬磨のベンチャーキャピタリストやジャーナリストたちと活発な議論をしていたのが印象的だった。

 女性データサイエンティストが増えている状況については、このカンファレンスに登壇していた米Airbnbのデータサイエンスマネージャのエレーナ・グレワル(Elena Grewal)がはっきりと「Airbnbのリクルーティングでは意図的に女性データサイエンティストを採るようにしている」と明言している。同社では2015年から女性データサイエンティストを積極的に採用した結果、女性従業員の割合が15%から30%へと倍増したという。また、女性だけでなく、マイノリティと呼ばれる人々の採用にも力を入れていると明かしている。これはつまり、同じ能力をもった男性と女性のデータサイエンティストがいたとしたら、女性のほうを採用するということを意味している。

Airbnbのデータサイエンティストを統括するエレーナ・グレワル。分析に多様な視点をもたせるためにも女性データサイエンティストを積極的に採用中だという

 これまでのハイアリングプロセスを大きく変更してまで、なぜ同社は女性データサイエンティストにこだわるのか。グレワルは「Airbnbのユーザーの30%は女性。にもかかわらず、Airbnbの女性データサイエンティストは昨年(2015年)までは1%にも満たなかった。ユーザーが多様化しているのに、そのユーザーデータを分析するデータサイエンティストに多様性がない状態はおかしい」と回答している。データ分析に多様な視点をもたせること----。シリコンバレー屈指のユニコーン企業であるAirbnbのトップデータサイエンティストが言う"多様性"という言葉は強い説得力をもって響いてくる。

 データサイエンティストという職業はITの先進国である米国においても比較的新しい部類に入る。したがって男性優位の文化の影響、日本で言えば"体育会的"なマインドがそれほど浸透していない職業なのだ。いわば、男性と女性がゼロから新しいカルチャーを作り上げている状態であり、特に数学が得意な女性にとっては非常に魅力的なキャリアに映ることは間違いない。

 また、シリコンバレーのスタートアップに在籍する筆者の友人は「ヒラリー・メイソン(Hillary Mason)という若く美しいロールモデルが存在している影響は大きい」と話していた。米国でもトップクラスのデータサイエンティストであり、女性としても魅力的なメイソンは、米国のIT業界に進もうとする女性たちにとって憧れの存在のひとりだ。こうしたいくつもの時代のうねりが相乗効果として発展し、女性データサイエンティストが数多く誕生するという現象が起こっているのだ。

 Structure Dataを取材中、参加者の若いイラン人女性と一緒に昼食を取る機会があった。「こんなに女性の参加者が多いとは思わなかった。本当に驚いた」と筆者が口にすると、彼女はにっこり笑って「そうかもね。でも(パロアルトやマウンテンビューなど)シリコンバレーの中心に来たら、もっと(女性が)多くてびっくりするんじゃないかな。データサイエンティストになる条件は、インフラ系のエンジニアと違ってそんなに女性にとって厳しくないから。いまならPythonとSparkとKafka(Apache Kafka)くらいで十分だし」と答えてくれた。

 パロアルトの企業でデータサイエンティストをしているという彼女は、学生のころはHadoopを触ったこともあるが、「バッチ処理に時間がかかるのが本当にうざったかった」と振り返る。今はSparkとKafkaでストリーミングデータをリアルタイムに分析するのがメインの仕事だと言っていた。「プログラマとデータサイエンティストの境界もだんだん曖昧になってきているかもしれない」という彼女の言葉に、新しいトレンドが生まれつつあるとはっきり感じたのを覚えている。

 時代の変化とツールの進化、そして女性自身の意識の成長----。 男性優位だったシリコンバレーの世界は、いま明らかに別のステージへと向かいつつあるのは確かなようだ。

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