2015.08.19

おなじみの実験装置「空気砲」も登場!
実験をエンターテインメントに変える発想をでんじろう先生がひも解く

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 2015年7月23日(木)に東京・丸の内のJPタワーホール&カンファレンスで開催されたチームスピリットのユーザー会「TeamSpiritファン感謝Day2015」。特別講演では、テレビ番組などで楽しい理科の実験を披露する「でんじろう先生」こと、サイエンスプロデューサーの米村でんじろう氏が登場。「科学から科楽へ - 理科室の実験をエンターテイメントに換える視点と発想」をテーマに、さまざまな化学実験を交えながら、これまでの経験談やエンターテインメントへの発想転換の重要性を語った。

サイエンスプロデューサー 米村でんじろう氏

始まりは「どうしたら生徒が興味を持ってくれるか?」

 29歳で都立高校の教師になった米村氏だったが、最初に赴任した学校はいわゆる"教育困難校"。授業が始まっても生徒が振り向かない、空席が目立つ、生徒がいつの間にか移動しているなど、新米教師にとってはつらい環境だったそうだ。

 そこで「どうしたら生徒が授業に興味を持ってくれるのか?」を考えたとき、思い出したのは自分が子供のだった頃の記憶。「理科や科学の実験が好きだったから、理科の教師になった」ことを思い出し、同じように面白い実験を体験させようと考えた。

 当時まず取り組んだのは、生徒に観察ノートを持たせて、実際に地域の自然に触れたり学んだりさせること。しかし、この自然観察は退屈だったようで、生徒には受け入れられず失敗に終わってしまった。この結果から「観察では生ぬるい」と感じた米村氏は、もっと体当たりで自然に触れられる方法を考えた。そこで思いついたのが「野草の採集」。しかも、集めた野草をビーカーで茹でて食べるところまでをひとつの実験とした。

 とはいえ、子供たちが集めた野草がすべて食べられるとは限らない。その点について米村氏は「どの野草が食べられるかを調べることで、子供はようやく真剣になる」と語る。そして「そこで初めて"分類"の概念を学ぶことになる」と解説した。

 このように、実験はやったからといってすぐに上手くいくとは限らない。どうしたら子供たちが喜ぶかを考え、「自然観察であれば、食べるなどの体験要素を増やすなどの工夫を施した」。

 この体験から、米村氏は自分が面白いと感じるさまざまな実験を考え出し、授業の導入(=つかみ)として実施した。その数は100種類近くにのぼるそうで、今回の講演では黒いゴミ袋を使った「ソーラーバルーン」や備長炭を使った「手作り電池」などを映像や実演で紹介した。

備長炭を使った手作り電池の実験では、3本を直列につないで小型ラジオを再生

エンターテインメントには"不思議さ"や"驚き"が必須!

 こういった「つかみの実験」は子供たちの興味もとても高かったが、残念ながら授業に対する学習効果には結びつかなかったとのこと。5~6年は夢中で教師として走ったものの、ふと振り返ってみて「自分は教師に何と向いていないことか」と思ったという。この気持ちは、転勤願いを出して環境を変えてもあまり変化はなかった。

 そんな折、あるイベントの展示やテレビの科学番組でアイデア出しをする機会があった。このような活動を続けるなかで「自分は展示品や番組の企画などを作る方が向いているのではないか」と考え、40歳で教師を辞職。フリーランスの道を歩むこととなった。

 しかし、いざ展示品や番組企画に携わる仕事をやろうとすると、なかなかチャンスは訪れない。なぜなら、すでにその道のプロが存在していたからだ。その一方で増えてきたのが、自分が表に出てインタビューに答えたり実験を披露したりする仕事。「本来は物作りや企画を立てる"裏方"の仕事がやりたかったのに、いつの間にか自分が人前で話したり実験を見せたりする"表方"の仕事が増えた」。まさにこれが、いまの仕事の原型になっている。

 人前で実験を披露する仕事について米村氏は、「1回目は新鮮なのでだいたい評判はいい。しかし、難しいのは2回目」と語る。当然、2回目も何とか面白くしようと工夫するが、往々にして「前のほうがよかったですね」といわれ、場合によってはもう仕事が来なくなるケースもあるのだとか。こういった経験から「評価を受けなければ次がない」という厳しさを実感し、「面白いことをやらなければダメだ」ということを痛感したそうだ。学校の生徒と違い、「一般のお客様には難しいことを押し付けるのではなく、積極的に楽しんでもらうことが大事。そういったことをやっていかなければ仕事が続かない」と米村氏は説く。

おなじみの空気砲では大型タイプも登場した

"科学を楽しむ文化"を日本から発信

 このような経験を踏まえ、学校の実験からエンターテインメント性が上がった実験として紹介されたのが、米村氏の実験ではとても有名な「空気砲」だ。空気砲はそもそも"渦輪"を発生させるための道具で、渦輪は空気や水の流れで起きる現象のこと。学校の実験であれば渦輪をそのまま見せればよいのだが、エンターテインメントとして見せるのであれば「不思議さや驚きを演出しなければならない」点が重要となる。

 例えば、"空気砲"という名前を付けて人や的に放ったりするところからスタートし、細長いヒモを飛ばしたり空気砲自体をさらに大型化させたりすることで徐々にインパクトのあるものに進化していった。ちなみに、ハデな演出をするためとはいえ、「特別な物を使うと意外に喜ばれない」と米村氏はクギを刺す。身近なものを使ったうえで、それでもスゴイと感じさせるものがいいそうで、空気砲であれば"空き箱"を使っている点が重要なポイントだ。また、自身のスタンスとしては「研究者というよりはクリエイターに近い発想で実験を表現している」と考えており、「新しい原理を発見しているわけではなく、見せ方や表現を開発している」と冷静に分析した。

 このように理科室の実験をエンターテインメントに進化させ、現在は親子向けのサイエンスショーなども開催している米村氏。マネのできる前例がないためつねに手探りで進んできたが、この18年である程度のコンテンツはできあがったと自負している。しかし、現状では幅広いニーズを「掘り起こせていない=営業できていない」と感じているそうだ。

 この現状を打破するためには、次のイノベーションが必要となる。「ここまで成長できたが、絶やしたら終わり」との危機感も持っており、現在はさらなる成長要素を模索中。さまざまな企業と組んでサイエンスショーを主要都市で定期公演化したいと意気込むほか、海外への展開も視野に入れている。そして、「"科学を楽しむ"という新しい文化を、日本から発信していきたい」と結んだ。

送風機を使って物を浮かせる実験。つながった風船が回転しながら空中に浮かぶ

text/photo:Toshinari Kondoh(Spool)

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