2015.09.09

目前に迫る「マイナンバー制度」
基礎からビジネス活用までを詳しく解説

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 チームスピリットが7月23日(木)に東京・丸の内のJPタワーホール&カンファレンスで開催したユーザー会「TeamSpiritファン感謝Day2015」。基調講演では、日経BP イノベーションICT研究所 上席研究員の井出一仁氏が登壇。「企業でのマイナンバー制度への対応策と今後のビジネス活用」をテーマに、マイナンバー制度の基礎から企業の対応、今後の活用までを丁寧に解説した。

日経BP イノベーションICT研究所 上席研究員 井出一仁氏

制度浸透までは手間が増える?

 そもそも「マイナンバー制度」というのは略称で、正式名称は「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」。社会保障・税・災害対応のために個人ごとに番号をつけていく制度で、国民の利便性向上やより公平・公正な社会作り、行政事務の効率化などが目的となる。

 個人番号は12桁(法人番号は13桁)で、世帯単位で今年の10月以降に通知カードが簡易書留で届く予定。この通知カードは運転免許証やパスポートと併用して行政手続きに使用することが可能だ。また、この簡易書留に同封されている「個人番号カード交付申請書」で申請すれば、来年の2016年1月1日以降にプラスチック製の個人番号カードを受け取ることができる。さらに、2017年1月からはWebサイト「マイナポータル」で自分の情報を確認できるようになる。

 一方で企業の事業者は、源泉徴収票や健康保険、厚生年金、雇用保険など社会保障・税に関する書類に従業員のマイナンバーを記載して提出することになる。また、法律に明記された目的以外での利用は禁止されるため、例えば「マイナンバーを社員番号の代わりとして使う」のはNG。情報保護のために安全管理処置の対策を取る必要もあり、故意の情報漏えいには懲役・罰金刑が科せられる。そのほか、税理士や大家などへの支払調書にも、それぞれのマイナンバーの記載が必要となる。

 なお、個人の情報はそれぞれ分散管理されるため、国や自治体は行政事務で必要になるその都度ごとに情報を結びつけることとなる。例えば最寄りの区役所などへ訪れた際、世帯情報や地方税の情報、年金給付情報などの各行政機関が保有する情報は、マイナンバーを使いバックオフィスでコンピューターネットワークシステムを利用して収集される。そのため、新聞や週刊誌で騒がれているように「個人情報を一元管理するわけではない」(井出氏)とのことだ。

 また、各機関の情報がバックオフィスで連携されるのは2017年1月以降の予定。さらに、自治体を含めた連携は同年7月からとなるため、それまでは「手間ばかり増えて、まったく便利には感じられない」(井出氏)状況と推測される。今後の見通しとしては、2017年にマイナポータルでの公金決算や個人番号カードに銀行のキャッシュカードの機能を追加するワンカード化の推進、2018年には個人番号カードを健康保険証の代わりに利用できる環境が実現する予定だ。医療分野との連携や戸籍・旅券事務への拡大なども計画されており、税や社会保障だけでなく「いろいろな分野にマイナンバー制度が広がっていく」(井出氏)ことがわかる。

各行政機関が保有する情報は、マイナンバーを使ってバックオフィスでその都度連携される

企業対応のポイントは「取得」「利用」「管理」そして「廃棄」

 では、マイナンバー制度に対して、企業はどのような対応を取ればよいのか。基本的には「従業員のマイナンバーを集めてきちんと管理し、必要なときに必要な書類にマイナンバーを記載して行政機関に提出する」ことがメインとなる。

 まずスケジュールを確認してみると、マイナンバーの記載が必要な法定調書や所得税、個人住民税、法人税法人事業税などは、前年の支払いに関して書類を提出するので、対象は2016年の支払いからになる。ただし、実際にマイナンバーを追加した書類を提出するのは2017年になるため、「いますぐに対応しなければならない」というわけでもない。一方で、雇用保険などの社会保障は2016年1月から提出書類への対応が必要となる。しかし、雇用保険は資格の取得や喪失のタイミングで出す書類なので、既存の従業員に関してはほとんど提出書類が発生しないわけだ。

 このような状況を踏まえ、どのタイミングでマイナンバーを従業員から集めるのかなどを考える必要がある。もちろん、システム対応が必要な場合についても、このスケジュールを踏まえたうえで対応を考えることが重要となる。

 次に井出氏は、マイナンバーにおける代表的な注意点をいくつか挙げた。マイナンバーの「取得」においては、仮に書類の提出が2017年であったとしても、2016年1月以降の短期アルバイトや2016年3月末の退職者などからは、その時点でマイナンバーを集めておく必要がある。なぜなら、いなくなってからではマイナンバーを集めるのが困難になる可能性もあるからだ。

 また、マイナンバーを収集する担当者をきちんと決めておくこと、マイナンバーの提出を断られた場合に税務署へ証明できるための記録を残すことなども必要とのこと。さらに、税理士や社労士にマイナンバーに関連する書類の作成を委託する場合には、「必要かつ適切な監督」をすることも重要。これは「きちんとした人を選び、安全管理処置に関せる契約を結び、取り扱い状況を把握する」ことを意味する。そのほか、再委託の場合には委託元の許諾が必要となるため、「委託元は再委託先についても間接的に監督する義務が生じる」(井出氏)こととなる。

 マイナンバーの「利用」においては、グループ会社でも他社の従業員の番号にアクセスするのはNG。グループ会社で統合人事データベースを作っているケースもあるが、マイナンバー法ではマイナンバーの管理が法人格で区別されるため、法人格が異なる会社の従業員のマイナンバーが確認できるシステムでは、何らかのシステム変更が必要となる。そのほか、出向や転籍の際に会社がマイナンバーを含む情報を動かすのもNGとなるため、本人が情報を移すか転籍先の企業が再度取得する必要が出てくる。

 一方、マイナンバーの「管理」においては、世の中では「非常に危ない」という声も上がっている。しかし、井出氏は「それほど心配しなくても大丈夫」と語る。なぜなら、現時点でも「企業の給与情報などが誰にでも見れる状況にはなっていない」からだ。ただし、多くの企業は個人情報取扱事業者のような情報管理には慣れていないので、マイナンバーの管理には十分な注意が必要となる。

 また従来の情報管理と違い、マイナンバーには「廃棄」という最大の違いが存在する。これは必要なくなったマイナンバーは持っていてはいけないと法律で決まっているため、例えば退職した従業員などのマイナンバーは再生不可能な形で削除・廃棄する必要がある。なお、税務関連の書類は7年間保存する義務があるため、紙で保存する場合はマイナンバーだけ墨で消すなどの作業をしないと法律違反になる。このような背景から「廃棄することを前提にした管理が必要となり、紙での管理は大変になる」(井出氏)と注意を促した。

企業でのマイナンバーの利用イメージ

個人番号カードの活用がビジネスのカギ

 最後に、マイナンバーの今後のビジネス活用について紹介した。そもそもマイナンバーそのものは民間利用は禁止されている。しかし、マイナンバーが記載されている個人番号カードにはICチップが内蔵されており、そこに活用法があると井出氏は言う。

 ICチップにはオンラインでの認証などに利用できる電子証明書も入っており、個人認証サービスとしての利用可能。同様のサービスは、すでにe-Tax(国税電子申告・納税システム)などで利用されている。いずれe-Taxでも個人番号カードによる認証が可能になるほか、今後はさまざまなオンラインサービスでも活用可能になると考えられる。

 例えば、銀行であれば今後はキャッシュカードやクレジットの本人証明に利用される予定がある。銀行にとっては成りすましによるサイバー攻撃が問題となっているため、個人番号カードが利用可能になれば成りすましへの強力な対策となるだろう。安全で確実なユーザー認証が個人番号カードで可能になるため、井出氏はこういった利便性を「ビジネスに使っていくとチャンスがあるのではないか」との考えを示した。

 また、冒頭で紹介したWebサービス「マイナポータル」では、個人の記録をインターネット上で確認できるほか、電子私書箱や電子決算サービスなども今後追加される予定がある。電子私書箱は、保険会社からの控除証明書やリコール案内などを無料で送ることが可能。電子決済サービスでは、納税や社会保障などの決済をキャッシャレスで行えるようになるメリットなどが想定されている。

 しかし、この個人番号カードがはたしてどこまで普及するのかという問題もある。政府は2016年3月までに1000万枚、2019年3月までに8700万枚の配布を見込んでいるが、住民基本台帳カード(住基カード)は10年で600万枚(5%)しか普及しなかったという状況があるからだ。そのような側面もあるため、自社の客層やマーケット規模を踏まえ、「どこまで普及したら対応すべきか考えて判断してほしい」とアドバイスした。

個人番号カードを使った個人認証サービスは、今後民間に拡大すると考えられる

text/photo:Toshinari Kondoh(Spool)

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