2016.03.16

「ポストモダンERP」基礎講座①
「ERPのクラウド化」って、一体どういうこと?

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以前のコラムでもご紹介したように、企業が情報戦略をたてるうえで「ポストモダンERP」というコンセプトを理解することは非常に重要です。
今回は、その「ポストモダンERP」をより深く理解するための基礎講座として、そもそもクラウドとは何なのか、業務システムを取り巻く世界に今どのような変化が起こっているのかについて、改めて考えてみたいと思います。


今さら語ることではありませんが、インターネットの登場によって私たちの生活は一変しました。5歳の息子も、最近家で見慣れないものを見つけると当たり前のように「これ、Amazonで買ったの?」と聞いてきます。世の中に大きな変化をもたらしたインターネットですが、今、それに匹敵するほどのパラダイムシフトを起こしているといわれているものがあります。それがクラウドコンピューティングです。

一昔前は、携帯メールは携帯で、PCメールはPCでしか見ることができず、音楽もCDを買ってPCに取り込んでからポータブルプレイヤーに転送しなければなりませんでした。ところが今は、Webメールを使用すればPC・スマホ・タブレットなど、どんなデバイスでも同じメールアドレスでやりとりができますし、音楽もほしいときにダウンロードして購入できます。容量の大きい写真や書類もクラウド上に保存すれば、だれとでも簡単に共有することができるようになりました。
これらはすべてクラウド技術によるものです。もしクラウド技術の発展がなかったら、スマートフォンやタブレットがここまで爆発的に普及することもなかったかもしれません。

業務システムの次の大きなうねりは、「ERPのクラウド化」

さて、これまでもテクノロジーの進化は業務システムに大きな変化をもたらしてきました。なかでもERPパッケージの登場は、業務システムの歴史においても非常に革命的なできごとでした(※1)。
「社内のあらゆるデータを一元管理し、さまざまな角度から分析することで、迅速かつ的確な意思決定を実現する」というERPのコンセプトは当時非常に画期的であり、大企業から中小企業まで一気に導入が進みました。

一方でERPの導入には莫大な費用と時間がかかり、カスタマイズやアドオン開発が必要となる場合には、開発コストや運用保守コストが嵩んでしまうという課題もありました。また「ユーザビリティ」よりも「経営者がほしいデータを得る」ことが優先されていたため、実際に業務を行うエンドユーザーにとっては、使いづらいシステムになりがちでした。

しかし、昨今のビジネス競争の激化やグローバル化によって、システムには働く人の生産性や創造性を加速させる新たな役割が求められ始めています。
安定性・整合性のみならず、時代の変化に柔軟に対応できる弾力性や手軽さも重要なキーワードとなっています。そこで注目を集めているのが業務システムの「クラウド化」です。

オンプレミス型ERPのNo.1企業として市場を牽引し続けてきたSAPも、数年前に「クラウドカンパニー」として生まれ変わることを宣言し、大きく舵をきり始めました。その他のERP製品も次々とクラウド対応し、クラウドERP専業の企業も存在感を示し始めています。

さらに、矢野経済研究所は下記のような調査結果を発表しています。

2015年以降のERPパッケージライセンス市場ではクラウド化の進展に注目
注目すべきトレンドとして、クラウド化の進行が挙げられる。ERPはCRMやグループウェア等情報系のシステムと比較してクラウドの利用率が低い業務分野だが、2014年頃からはユーザ企業のニーズの変化が見られ、ERPをクラウドで利用する企業が増えている。特に、クラウド基盤サービス(IaaS/PaaS)が採用されるケースが多い。また、有力ベンダーがSaaSによるアプリケーションの提供サービスを強化する動きも進んでおり、2015年以降、ERPのクラウド利用には弾みがつくと考える。

出典:「ERP市場動向に関する調査結果 2015-矢野経済研究所」
https://www.yano.co.jp/press/press.php/001406

まさに「ERPのクラウド化」が、業務システムの歴史における次の大きなうねりとして表れ始めていることが感じられるのではないでしょうか。

(※1)ERP(Enterprise Resource Planning)とは、財務会計・人事管理・販売管理・生産管理・物流管理など、企業の基幹業務データを統合管理するパッケージソフトウェアです。
(※2)こちらのコラムでも業務システムの変遷について、簡単に触れております。是非ご参照ください。
https://www.teamspirit.co.jp/catalyst/work-style/postmodern-erp.html

「クラウド型ERP」って何?

では「クラウド型ERP」とは、一体どのようなものなのでしょうか。
「クラウド型ERP」とは、オンプレミス型で提供されていたERPパッケージの機能をクラウド環境で使えるようにしたアプリケーションの総称です(そのままですね......)

クラウド環境の2つのタイプ:
プライベートクラウドとパブリッククラウド

クラウド環境は大きく分けて「プライベートクラウド」と「パブリッククラウド」の2つに分類することができます。

プライベートクラウド

ひとつの企業のためだけにクラウド環境を構築・提供するサービスです。
プライベートクラウドには、企業がクラウドサーバを独自に所持するケース(所有型)と、サーバ本体や設置場所はクラウドプロバイダーが提供し、システムの一部分をひとつの企業が占有するケース(利用型)があります。
高度なセキュリティが維持できる、サービスの仕様を自社で決めることができるなどのメリットがある反面、初期費用やメンテナンス費用が高額となり、場合によってはオンプレミスのシステムとほぼ変わらない価格となることもあります。さらに、簡単にリソースを増減することが困難だというデメリットも挙げられます。

パブリッククラウド

クラウドプロバイダーが提供するクラウド環境を、企業や組織をはじめとした複数のユーザで共有化するサービスです(マルチテナント型)。
初期費用はほぼかからず、ユーザは「使いたいときに、使う分だけ」利用することができます。メンテナンスもクラウドプロバイダーが行うため、企業はシステム担当者に負荷をかけることなくIT資源を利用することができます。

パブリッククラウドの3つの分類: IaaS/PaaS/SaaS

IaaS、PaaS、SaaSという言葉が最近よく聞かれますが、これらはパブリッククラウドで提供されるサービスの分類です。まずIaaSで提供するのは、OS・仮想サーバー・ネットワーク環境などのインフラ部分です。PaaSは、アプリケーションを開発・実行する環境(いわゆるアプリケーションプラットフォームといわれるものです)、SaaSは、利用者が直接使うソフトウェアサービスを意味します。

PaaSを活用することで、企業は短期間・低コストで各種ネットサービスを立ち上げられるようになりました。業務システムにおいても、さまざまなSaaS型サービスが生まれており、その多くが月額課金で一人当たりいくらというサブスクプリプションモデルで提供されています。企業は興味のあるサービスを手軽に試すことができ、まずは使ってみてうまくいけば本格導入、不満があれば別のサービスを試すなど、システムについて柔軟に考えられる環境が整い始めています。

「プライベートクラウド型ERP」を選ぶべきか「パブリッククラウド型ERP」を選ぶべきか・・・・・・。企業の課題や目的によって、どちらが適しているかは変わってきますが、変化にスピーディーに対応するという意味では、拡張性と弾力性が高いパブリッククラウド型のサービス、つまりSaaS/PaaSをいかに活用するかがポイントとなりそうです。

日本の少し先を走る北米を見てみると・・・。

北米では、既にいろいろなクラウド型ERPが登場しています。どのようなサービスがあるのか、少しご紹介してみたいと思います。("ERP"をどのように定義するのかが難しいところですが、ここでは基幹業務の一部機能のみを持つサービスも紹介します)

・Zenefitshttps://www.zenefits.com/) 
中小企業向けの人事管理プラットフォームです。給与計算・支払、住民税支払、健康保険や401K(確定拠出年金)、ストックオプションなどの福利厚生、採用管理、勤怠管理などのサービスを提供しています。
企業に対してはプラットフォームを基本無料で提供し(オプション機能は有料)、その代わりに保険会社からコミッションを得るというユニークなビジネスモデルを展開しています(Zenefits は保険仲介業者でもあり、中小企業に保険を販売することで、販売手数料を得ています)。サービス開始から2年で時価総額が5,400億円となるなど、急成長中のサービスです。

・Gustohttps://gusto.com/
こちらも、中小企業向けのオンライン人事管理サービスです。もともとZenPayrollというサービスで、給与計算分野に特化していましたが、競合のZenefitsに対抗すべく福利厚生や健康保険などの機能を拡充し、2015年9月にはGustoへと名前を変更しました。

・Workdayhttp://www.workday.com/jp/
日本でもサービスを展開している財務・人事管理サービスです。アメリカではIBM、Coca-Cola、Levis、Netflixなど、日本ではソニー、日立製作所、ファーストリテイリングなどの大企業が採用しています。給与、勤怠、福利厚生だけではなく、パフォーマンス管理や目標管理、キャリアプラン管理などのタレントマネジメントや人員計画なども含む採用管理に力を入れていることが特徴です。

・NetSuitehttp://www.netsuite.co.jp/
「クラウドERP」を大々的に謳っているサービスです。財務会計/ERP、CRM、Eコーマースなど、幅広い機能を提供しており、世界中の30,000を超える企業や組織で利用されているそうです。日本でも2009年からSaaS型ERPを展開し、アシックス、DeNAなどの大企業で採用されています。

・FinancialForcehttp://www.financialforce.com/
こちらも「クラウド型ERP」を謳ったサービスです。2009年にSalesforcr.com社とUnit4 Agresso社のジョイントベンチャーとして生まれました。もともとは財務分野が中心でしたが、最近ではサプライチェーン管理や人事管理機能を提供するなどソリューション領域を広げ続けています。

とはいえ、そんな先進的ことはまだ考えられないんだけど...。

日本発のサービスのみならず、北米で生まれたサービスも日本に進出し始めていることがわかりますが、まだそんな先進的な取り組みをするところまで頭がまわらないと考える方も多いかもしれません。実際にIDC Japanの調査では、「自社のIT戦略にクラウドが影響を与える」と考える日本企業がそれほど多くないという結果が表れています。しかしこの調査で注目すべきは、クラウド利用中の企業のおよそ8割が、「クラウドはIT戦略に大きな影響を与える」と回答しているという点です。(※3)
クラウドサービスの良さは使ってみないとわからない、一度使ったら手放せない......ということなのかもしれません。

では、なぜクラウドを利用している企業は「クラウドがIT戦略に大きな影響を与える」と考えているのでしょうか。クラウドによって「働く人の生産性や創造性が加速する」というのはどういうことなのでしょうか。次回は、これらの疑問について整理してみたいと思います。

(※3)出典:IDC Japan株式会社 「国内クラウドユーザー動向調査結果を発表」
http://www.idcjapan.co.jp/Press/Current/20150811Apr.html


「ポストモダンERP」基礎講座

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